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会長からのメッセージ −その46−

「研究」

 こちらへ来て、困ったことは一人一講座なので、助手や研究室事務といった方がおられないということだった。それで、何でも自分でやらなければならない。こりゃ結構大変なんですよ。どれくらい大変かといえば、郵便をだすのも、自分で事務室へ持参して、封書の重量を測って、封筒に切手を貼って、切手使用の記録をつけてなどを自分でやらなければいけない。と、書いてはみたが、大したことじゃないですね。やってみると大したことはなくて、今までは怠けていただけであるということに気づく。研究に関しても自分で全てやらなければならない。これも大したことはないんだが、いちばん大変なのは、実は腰を上げることであって、それが一人だと大変である。結局これも怠け者であることの証明。今では特別研究員が一人来てくれたので恰好の相棒となっていて、この点はだいぶ解消されている。それでもいままでよりは自分でやることが増えてきた。それらは実は大変楽しくて、なぜ今まで自分でやらなかったんだろうというようなことばかりだ。いままでは何をしていたかというと、こういうのは院生諸君にやらせて、そこから上がってくる報告書(すなわち投稿用原稿)を見ていたということになる。これは相利共生システムとしては良くできていて、私はこれによって、私の名前のついた「業績」を稼ぐことができるし、院生諸君は学位をとることができるというわけだ。これはこれで、大事な仕事であり、大学院大学のプロフェッサーの要件ともいえるべきことだ。人事の際に「業績審査」にやたらに厳しいのも、この要件をこなせるかどうかの資格審査という意味合いがある。特に優秀な院生がいると、私の「業績」の数が加速されることになる。しかし実は、これってそれほど楽しくないのである。ご自分でも十分に把握されていないために、なにを言いたいのか解らないというような原稿とか、このデータからこんなことが言えるのかといった議論とかがあるとうんざりする。見ているだけで眠気を催すことも多い。ただし、原稿を眺めているウチに、このように解析したら、とか新しい説明法などを思いついたりするから、そんなときは「共同研究」という名にふさわしい展開となる。

 わくわくするような研究は、自分で調査し、自分で発見したときだろう。小さな発見でも、自分ですると嬉しい。人の原稿を読んでいるだけではつまらないような気がする。で、どんな研究をしているのだと言われても、実はこのメッセージのなかでも紹介していて、それ以来そんなに進んでいないから困るのだが。葉の生涯光合成とGPPというもので、1枚の葉の生涯光合成を測定すれば総生産量が推定できるという自分なりの発見を裏付けようという研究である。今は、そこから派生した、どんな葉を選べば、代表的な「1枚の葉」と言えるのかということと、実際に推定してみてそれが従来の推定値と合うのか合わないのかという2つの問題を考えている。日本海側のブナ林のGPPに関しては、数十年前に、当時新潟大学におられた丸山幸平先生が立派な研究をなさっていて、数個の林分での測定例が示されている。その平均値は有機物量27トン(ha-1年-1)となっている。ところで僕の方式で計算してみると10トンそこそこにしかならない。これは駄目だとしばらく放り出していたのだが、学会の数日前になって、重要なパラメーターを入れ忘れていたことに気づいた。発表済みの論文にも入れ忘れていたのならまずいなと思って、チェックしてみるとそれにはちゃんと入っていた。本来入れなきゃいけなくて、それが解っているのに入れていなかったということである。完全な惚け症状である。といって自分に感心している場合じゃない。大慌てで計算をやり直してみると、今度は28トンという推定値がでた。あまりに合いすぎるのも気持ちが悪いのだが、すごい数字がでてしまった。とりあえず、われわれの新しい手法が使えそうだということだけは確かなようだ。今度はこれを論文にしなきゃいけない。原稿は書き上げてあるのだが、僕の場合はそれから時間がかかる。

▲梅雨期には稀にしか白山が見えないのだが、今年は見える日が多い。雪解けが目立つようになり、斑山となっている。来週は常任委員会だ。