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会長からのメッセージ −その53−

「そろそろ身を引くことを」

メッセージ53 

 「明日こそは全軍を挙げて京都へ進撃するぞ」、と反撃の気合いを入れた総大将の徳川慶喜はその夜のうちに大阪城を抜け出して江戸へ逃げ帰ってしまった。残された面々はまさに気合いが抜けてモノも言えずといった、安部首相の辞任劇であった。でもまあ、あれこれ考えたことがうまくいかず、回りから責め立てられたら、何もかも放り出したくなるのだろうな。無理をして続けても大変だったでしょう。僕の方は、会長職を何とか放り出さずにここまで来てしまった。会長とはいえ、ほとんどは事務局にお任せの「ひま人会長」ではあるが。あと4ヶ月足らずを何とか努め終えて、任期満了まで持ちこたえなければならない。

 県立大学へ来てから、県や市の委員会などの委員、座長などを依頼されることが多くなった。地域貢献を重視して、積極的に引き受けるのが大学の方針なのでお断りをせずに引き受けている。当然のことだけど、だんだん増えてきますな。その他に、ここに書くわけにはいかない、コンフィデンシャルの用務も2,3ある。

 委員会の中では、林業に関する委員会が多い。「森林再生プロジェクト」「林業大学校設立準備委員会」「森林整備検討委員会」など、ものものしい名前がついている。このような委員会の座長を勤めるのは、どれだけ林業に詳しい人であろうと思われるかもしれないが、私自身は林業についてなにほどの知識も経験もない。研究してきたのは、林業の技術を森林生態学的知見から裏付け、新しい方向性を示すということであった。とりわけ、個体群の密度法則と個体サイズ分布法則とを結びつけ、従来は密度法則だけに則り、平均値レベルの処理だけですましていた本数管理を、サイズ集団という観点から考え直したことが私の業績といえるだろう。その結果は、従来の間伐概念の根本的見直しとか、下層間伐では間伐効果が薄いことの指摘とかの林業技術にも結びついているから、まあ専門家と言えなくもない。

 しかし搬出のコストを下げるにはどうしたらよいか、とか、現在の材価はどのていどなのか、などについては耳学問だけで、実際のところはさっぱり解らない。そもそも一介の大学教師が「儲かる」話のできようもない。もちろん私だって、「コストを下げて、利得の上がるようにしなければならん」などと、もっともらしい顔をして申しあげているが、そりゃ当たり前の話だね。

 そもそも私は、前にも書いたかもしれないが、自分の小遣いもろくに管理できない。財布の中にどれくらい入っているかは、その膨らみ感で大体把握していて、これはプラスマイナス20%程度の精度があるが、じっさいのところは正確に把握しているわけではない。カードで買い物をするのは外国の本を買うときと国外大会などに送金するときだけであり、日常生活はこの財布だけが頼りなのだが、今のところ大きな失敗はしていない。小心横着者なのである。

 こんな人間が学会賞に寄付をするなどというのは実に横着な公約であるが、これについては案が成った。すなわち私が死んだらその際に支払われる予定の保険料をもって充当するのである。これがうまくいくのかどうか、その時は私はこの世にいないので責任は持てない。とりあえず、私が生きている間に「キクザワ賞」などの恥を見る必要もなく、公約も果たすという名案である。

 ただし、早く新しい賞を受賞したいという希望者が出て来られたら困ることになりますね。そのあたりはご賢察をお願いするしかない。

▲北海道日本海側の海岸
小樽、余市、岩内をすぎどんどん南へ下がった日本海岸の風景。ずいぶん昔、北海道に住んでいたころのスケッチです。