目次へ

会長からのメッセージ −その56−

「入札」

 日本生態学会で編集し、現在はシュプリンガー社から刊行しているEcological Research 誌の刊行に関しては国の出版助成によって助成金をいただいている。助成額は10年前には100万円だったものが、今年度はほとんど1桁上の額になっている。徐々に増えてきたのではなく、当時の東編集委員長の努力によって急増したのである。これについては前に述べたことがあるし、東さんには功労賞を差し上げて感謝申しあげたという経緯もある。もちろん東さんだけの功労ではなく、歴代編集委員長、編集委員、査読者、出版社それに論文を投稿してくれた会員(および非会員、以下同じ)、雑誌を講読していただいている会員、図書館でパラパラとながめてくれた人、ウェブ上でブラウズしてくれた方などふくめた方々のおかげである。

 昨年あたりから助成の基準はきびしくなって、多くの学会が助成額を減らされたなかで、日本生態学会だけが増やしていただいた。なんと、日本生態学会は真面目、優等生タイプなのだ!基準としては、国際誌なんだから日本人の会員の論文だけが掲載されているようじゃ駄目である。この点はERはクリアしていて、著者名をざっとみたところ日本人の名前は半分以下である。また年に6号きちんと出版されている。等々、巌佐前編集委員長、河田新編集委員長以下みなさんが頑張って下さっているのだ。このように頑張っているところに条件をつけずに助成して、日本の学術成果を世界に発信することの一助とし、これによって日本という国の世界における知名度や地位を高めようというのは、きわどい給油作戦をするよりも、実に理にかなった、正しい税金の使いかたであると思うのだが、そうは思わない人もいる。おもに財務な方々であるらしい。

 せっかく補助しているのに、そのお金は日本国内の出版業者に流れるのではなく、外国の出版社に流れてしまっている。これじゃ国内の産業育成にも景気浮揚にもつながらない。本来、受注業者は公平な入札で決めるべきであり、そうすることにより、正当な価格で執行できるし、公平性も保たれる。業者のほうの合理化等企業努力をうながすことにもなるだろう、といった理由であるらしい。

 それで来年度の補助金からは、受注業者は入札にすべし、という指示が来ている。事務局で議論した結果、今急に補助金がゼロになっても困るので(実は、申請しても当たるとは限らないので、そういった場合に備えて少し貯金もしてあるのだが)、来年度も応募することにした。したがって入札によって業者を決めることになる。しかしそれだと困ることもある。

 雑誌の発刊なんて簡単なように思える。最も困難な過程は送られてきた原稿の学問的価値の判断であるが、この過程は編集委員会がやってくれる。編集委員や査読は全てボランティアである。もし、雑誌がよく売れるものならば、雑誌社から経費をちょうだいしたいくらいのものだ。編集委員会から送られてくる原稿をレイアウトしプリントアウトし、製本すればよいだけだから、コンピューターの発達した今日、しろうとでも出来そうな気がする。ということで、しろうと同然の印刷やさんに発注するとひどい目に遭う。ちょっと複雑な数式なんかは、いくら手直ししても満足できるようにならない。上付き、下付きなんかが徹底しない。そこへゆくとしにせの出版社はノウハウを蓄えている。コピーエディターなんていう人が居て、英語も直してくれる。

 そもそもERはシュプリンガー社とは5年契約を結んでいて、現在はその3年目である。途中で相手を変えたら契約違反にならないのか。違約金をとられたのでは、せっかくの助成金もなくなってしまう。コンピューターを使った投稿、査読、編集システムも2年ほど前に導入したところである。この装置の引継はどうなるのだろうか。ERの1巻は、年に応じて発刊しているが、科研費は会計年度に応じているから、巻の途中で表紙が変わったりすることはないのか。紙媒体の雑誌に先だって、ウェブ上でも刊行されているが、これはどうなるのか。等々難問題が山積している。

 ということで現在、常任委員会で議論しているところです。実は上に上げた難問は困ったことではあるが、逆手に取れば落ち着くところに落ち着くのではないかと思っています。

▲京都の夕景 人通りの多くて明るい河原町とやや静かな木屋町を対照させようというつもりなのだが。