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会長からのメッセージ −その2−

「男女共同参画のあり方」

 男女共同参画の推進が、日本社会全体の大きなテーマとしてとりあげられるようになってきました。男性と女性が差別を受けず、それぞれの個性を生かしながら、社会のさまざまな場で活躍の機会を持つことは、とても大切なことだと思います。しかし、さまざまな歴史的事情から、女性が社会的に活躍する機会は制約されてきました。その結果、日本生態学会会員を例にとっても、性比は約4:1と男性に偏っています。このような状態から、女性の活躍の場をふやしていくにはどうすれば良いのか、その具体的な方法については、しばしば意見が分かれるところです。

 現在、政府のさまざまな委員会では、委員に女性を増やす努力が払われています。その結果、女性の研究者に大きな負担がかかっています。日本生態学会でも、全国委員会での女性の割合を増やすために、選挙の際に全国委員推薦で候補者をあげて投票するという方法を採用しています。結果として、全国委員推薦の候補者は必ず新全国委員に選ばれています。この方法は、一面では女性の研究者に負担を増やすことにもなっています。私自身は、全国委員推薦で候補者をあげて投票するという方法に対して、消極的な意見を述べたことがあります。

 しかし、日本生態学会の新常任委員候補を選ぶにあたって、私は女性をひとりは選びたいと考えました。そして、提案にあたって、「女性枠」という表現を使ったところ、前常任委員の山本智子さんから、女性を特別扱いする考えは好ましくないという趣旨のご意見をいただきました。

 私が女性をひとりは選びたいと考えた理由は、私自身のある経験にもとづいています。私は、岩波書店刊「科学」(Vol.67, No.6, pp. 426〜429, 1997)に「大学教官の任期制は研究活力を向上させるか」という記事を書いたことがあります。この記事を準備するにあたり、いろいろな問題点についてよく考えて草稿を書き、何人かの方に読んでもらいました。その過程で、女性の方から、私が完全に見落としていた問題点を指摘されました。それは、任期つきのポストでは、女性研究者はなかなか出産に踏み切れないということです。指摘されてみれば至極もっともなことです。どうしてこの問題に気付かなかったのかと悔しい思いをしたことを覚えています。私だけがとくに鈍感だったということではないと思います。男性は、女性のことを考えているつもりでも、実は非常に基本的なことすら、しばしば思い至らないことがあるのです。このような経験から、常任委員の一人にはぜひ女性をと考えたわけです。

 この場合の女性枠とは、私にとっては、分野、地方、年齢などと並ぶ、バランスを考えるうえでのひとつの判断材料でした。しかし、山本さんが「女性枠」という考えに批判的な意見を述べられたことにも、もっともな理由があると思いました。

 そこで、山本さんに私からメールを送り、もうすこし詳しくご意見を伺いました。以下に、山本さんからの返事を転載します。

 「現在の男女共同参画への取り組みを拡大して、若手のキャリアアップと就職問題を考えていくという方向に賛成です。ここ数年、学会だけでなく社会のいろいろな場面で、急速に男女比を是正しようとする動きが多く、私個人としては同じ年代同じキャリアなのに男女で社会的経験値が違ってくることに対して問題を感じております。学会や業界をひっぱていく役割はいずれ世代交代があるわけで、そのための準備期間もあるはずなのに、いざ世代交代というときに女性側にだけ経験値が偏っているのはどうかと思います。そんなに急がなくても、若い世代ほど構成員そのものの男女比は1:1に近いので、若手を押し上げることがそのまま男女比の是正にもつながると思うのです。学会は大学のような機関と違って、この取り組みを文科省などから評価される必要はなく、会員が納得することがほぼ評価といえます。それであれば、会員の中に男女や世代でコンフリクトを生みかねないような無理はすべきではなく、多くの会員が納得できて将来も見込める方向にもっていくべきだと思います。

 人のキャリアアップを考えるということは、学会が組織としてできることと、個人のつながりの中でやったほうがいいことがあります。若手の就職問題、これは間違いなく組織としてできることですから、当の若手が何を考えているのか、というところからはじめてはいかがでしょうか? 研究者で就職できなければ出版や教育などの周辺産業に行こうと思うのか、NPOで仕事をしていきたいけど収入が、今はいいけど将来が不安なのか、などなど。

 もうひとつものすごく具体的な提案ですが、学会の仕事をできるだけ多くの中堅若手にふって、経験値を増やして貰った方がいいと思います。いやしくも定職についている人間は何か貢献しろと。今時、研究者だって事務管理能力は問われますし、みんなで分担すれば負担にならない範囲のいい訓練になると思います。分担しすぎると各自が無責任になるので、まとめる方も大変ですが。」

 「若い世代ほど構成員そのものの男女比は1:1に近いので、若手を押し上げることがそのまま男女比の是正にもつながると思うのです」「みんなで分担すれば負担にならない範囲のいい訓練になると思います」というご意見には、私も大いに共感します。特定の人に負担が集中しないように、仕事を適度に分担して、みんなで学会を支えていくという方針で、学会運営を進めていくことができれば、それがベストではないかと考える次第です。

 というわけで、できるだけ多くの方に、いろいろな仕事をお願いできればと考えています。ですから、依頼が届いたときにはどうかお引き受けいただいて、「負担にならない範囲のいい訓練」と考えて前向きにご協力をいただけるよう、お願いしたいと思います。

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