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会長からのメッセージ −その3−

世界遺産科学委員会について

 6月12−13日と,知床が世界遺産に指定されて5周年を記念したシンポジウムが横浜で行われました。そこで強調されているのが,科学委員会の役割です。第1日目は,知床の世界自然遺産の設定や管理に科学委員会の果たした役割を中心としたシンポジウムで,第2日目は日本の他の世界自然遺産,とりわけ今年新たに申請される小笠原もふくめ,各遺産地域の科学委員会の委員長をパネリストとしてシンポジウムが行われました。世界自然遺産の科学委員会には,生態学会の会員が数多く関わられています。

 まず,知床の科学委員会の果たした役割が非常に大きいことに感銘を受けました。海域の保全と漁業資源管理を含む規制の問題や,河川工作物の改良,エゾシカの個体数管理などの科学的調査とそれにもとづく具体的な提案が行われ,モニタリング結果に基づく順応的管理という姿勢が貫かれています。行政や地元の人たちが,これらに対して大きな信頼を置いていることが良くわかりました。 小笠原でも世界自然遺産の申請をめざすために,すでに科学委員会が設立され,主として侵入種問題でユニークかつ効率的な管理方法を提案しています。おそらく,知床の場合と同じように,世界遺産の審査においては,この点が高く評価されることになるだろうと思いました。屋久島ではヤクシカの問題,私の関わる白神ではまだ顕在化してはいないものの,気候温暖化による影響などが問題となっています。

 世界遺産という枠組みがあるからこそ,ここまでの管理体制が整備できるという面がありますが,生態系管理におけるこうした研究者の関わりは,他の地域においても今後重要になってくると思います。シンポジウムでも,とくに地域の産業や住民の意思と実際の管理上の問題点を科学がどのように橋渡しするかという点が議論されていました。この点は,各地の自然再生でも同じだと思います。世界遺産の管理や自然再生での,生態学研究者自身の経験が今後,各地で活かされてゆくことを望んでいます。生態学の社会的な役割を強く感じた2日間でした。 なお,シンポジウムの様子は,7月11日(日)のNHK教育テレビで,18:00から放送されるそうです。興味のある方はぜひご覧ください。

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