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会長からのメッセージ −その7−

会長を終えて

 あけましておめでとうございます。

 昨年12月で、会長の任期である2年間が終わり、松田新会長に引き継ぎました。期間中は、学会事務局のみなさん、粕谷前幹事長、高田幹事長をはじめ、各幹事のみなさん、常任委員会のみなさん、全国委員のみなさん、各種委員会のみなさんには、たいへんお世話になりました。御礼申し上げます。

 2010年は生物多様性年や生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)であわただしく、やっと一段落と思ったら、2011年は3月の大会中に東日本大震災が起き、大変な1年になってしまいました。札幌大会の時には、私自身の学生も含めて、北海道の学会員の方々には非常に親切なご配慮をいただき、ありがとうございました。震災は、東大の大槌や東北大の女川などで、生態学会に関係する人たちにも大きな被害をもたらしました。これらの関係者や関係機関のできるだけ早い復興を祈ります。

 せっかくCOP10で、生物多様性が注目され、さまざまな研究や活動が活発になる、という時に震災でその盛り上がりが萎んでしまう、と思われた方も多かったようです。しかし、考えてみると、今回の震災被害が大きかった東北地方の沿岸域というのは、海や沿岸の生態系サービスに強く依存した生活や産業、文化をもっている地域です。こうした地域で生態系や生物多様性から生み出される生態系サービスを中心に据えた復興を考えなければ、地域の活力も特色も失われてしまうと思います。私自身は、東北大学のGCOEを中心に、そこで協働させてもらってきた企業やNGOと一緒に、「海とたんぼからのグリーン復興」というプロジェクトを立ち上げました(http://gema.biology.tohoku.ac.jp/green_reconst/TOP.html)。その考えをいろいろなところで話し、また書いたりもして、多くの方に賛同していただきました。

 原子力発電所の事故、東北地方全体での停電、仙台での1か月以上にもおよぶ都市ガス供給の停止、被災地への救援物資の遅れなどを見ると、大量のモノやエネルギーを一か所で集中的に、「効率よく」作ることのリスクも感じました。確かに経済的なコストは下がるのだと思いますが、これまでの生活のリスクがいかに大きかったのかを改めて体験したと思っています。復興には、こうした考え方も生かされるべきだと思いました。

 生態学会からも復興に関する意見書を出させてもらいました。ただ、意見書の内容については、さまざまな考え方があり、全体としての意思決定が遅れました。学会員4000人という規模は、意見書の社会的影響力は大きいのですが、その意思決定プロセスは複雑になってしまいます(この点に関しては、スピードのある対応を要求される現在としては、すこし考えるべき問題を持っているかもしれません)。

 しかし、こうした考え方は、まだ日本ではメジャーとは言えません。復興も、住民が知らないうちに大型の防潮堤の復旧計画が決まっていたりしますし、新しい土地利用計画にも、生態系や生態系サービスの考え方が十分反映されているとは言えないと思います。これから何年もかかる復興のプロセスの中で、私たちも引き続き声を出してゆかなくてはならない問題でしょう。また、生態系や生態系サービスの回復のモニタリングも、いくつかの団体でそれぞれ独自に進められています。こうした情報を共有し、モニタリング結果を生態学的な主張の強さとして生かしてゆく必要があると思います。生態学会には、この問題に対する強い関心を、持ち続けていただきたいと思います。

 3月の滋賀大会は、6年ぶりにEAFESとの合同大会になります。6年前の新潟大会でのことを思い出しますが、アジアの研究者のよい交流の機会です。アジアは、生態学から見た時にも、急速に発展しつつある地域だと思います。ただ、大会企画委員会、大会実行委員会のみなさんには、大変ご苦労をかけているようで、そのご努力にはほんとうに頭が下がります。その成功を含めて、生態学会のますますの発展を期待しています。2年間、本当にありがとうございました。

2012年1月5日 中静 透

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