| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-03

日光白根山のシラネアオイ保全に対するアプローチ:オルガネラDNA多型による地域間差異

*墨谷祐子(栃林セ),上野晴子(栃宇林),天谷正行(栃農試)

シラネアオイ(Glaucidium palmatum)は、北海道から本州中部地方に自生する高山植物で、1科1属1種の貴重な日本固有種である。日光白根山ではシラネアオイの大群落が知られていたが、シカの食害により群落の減少が続いており、栃木県では1993年から群落地を電気柵で囲い保護に努めている。また、県内の他の自生地でも、シカの食害により個体数の減少が認められている。一方で、他地域由来の個体が本来自生しない場所に植栽されるケースも見られる。食害による個体数の減少や、他地域株が移植されることは、シラネアオイの本来の多様性保全に何らかの影響を及ぼすことが予想されるので、現時点での白根山群落固有の遺伝的情報を把握しておく必要がある。

これまで、各地域個体群間の特性を調べるため、RAPDマーカーを用いたクラスター分析を行った。その結果、地域ごとにまとまる傾向が認められたが、日光白根山特有のマーカーは得られていない。そこで今回は、母性遺伝すると考えられる葉緑体ゲノム中の4箇所の遺伝子領域における塩基配列解析を行い、地域個体群間で比較した。使用した材料は白根山を含む県内自生地(5か所)、さらに群馬県(2か所)、福島県(1か所)の自生地と、北海道由来(植栽品)個体の葉から抽出したDNAを用いた。シラネアオイの配列情報が開示されているrbcL,ndhF,atpB,matKの4つの遺伝子領域から、primer3を用いてTm=55℃でプライマー設計した。PCR産物をダイレクトシーケンスし(ベックマン社CEQ8000)、DNASIS(Hitachi社)によりマルチプルアライメントを行った。しかし、今回比較した領域内では地域個体群間で明確な差異は認められなかった。今後は別の領域での比較を行う必要があると考えられる。

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