| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-06

Invasive mutualismによる小笠原諸島の送粉系崩壊

安部哲人(森林総研)

日本の海洋島である小笠原諸島では生物学的侵入によって固有の生態系が撹乱されており、外来種対策が喫緊の課題となっている.その中のひとつとして,小笠原で養蜂用に持ち込まれたセイヨウミツバチの分布拡大と数種の固有ハナバチをはじめとする在来昆虫相の衰退の実態が明らかになってきた(例えば,加藤ほか,1999).この現象は植物のポリネーター相の変質を意味することから,小笠原固有の虫媒花植物の繁殖効率に影響を及ぼす可能性が懸念されている.そこで,昆虫ファウナの変化が植物に与える影響を明らかにするため,父島,母島,周辺属島で訪花昆虫の訪花頻度とその行動パターンを調査した.

外来種であるセイヨウミツバチは父島・母島・兄島のほか,今回隣接する弟島でも確認され,その分布域を広げていることが明らかになった.小笠原で観察された訪花昆虫のうちセイヨウミツバチの訪花行動は固有ハナバチ類やハエ類より花序当り滞在時間が短く,1回訪花当りの訪花数が多かった.こうしたセイヨウミツバチの訪花特性は花数の少ない草本植物などの他家受粉には有利であるが,花数が多い木本植物には隣花受粉のコストが増大するものと考えられる.また,訪花頻度の観察結果から,セイヨウミツバチは小笠原在来の植物よりも外来植物に高い選好性を示した.このことは新たな生育地に侵入した外来種の定着にとって障壁の一つとなるはずのポリネーター欠落がセイヨウミツバチにより解消されていることを示唆している.さらに,セイヨウミツバチは訪花しているものの柱頭に全く花粉が運ばれておらず,ポリネーターとして機能していない固有種の花も見つかった.以上の結果より,小笠原では外来種同士の相利共生系の作用によって生物学的侵入が促進されているものと考えられる.

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