| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-09

ハマグリの生活史と資源管理

*逸見泰久(熊本大・沿岸域センター), 梶原信輔(熊本大・院・自然科学), 小林哲(佐賀大・農)

ハマグリMeretrix lusoriaは,日本各地の干潟で最も普通に見られる二枚貝であったが,現在は多くの地域で激減している. 演者らは,『干潟が健全で乱獲がなければ,ハマグリは砂質干潟の優占種で,その保全は砂質干潟生態系を守る上でも重要』との考えに基づき,本種の生活史特性の把握,個体数激減の原因解明,さらに,資源管理技術確立を目的として,福岡県加布里湾と熊本市白川で,本種の定量採集を行っている.講演では,加布里で得られたデータを中心に,定着・分散・成長・生残といった本種の生活史特性を紹介し,資源管理について議論する.

ハマグリは,希少であるのに加えて,わずかな生息個体も漁民や市民に漁獲されているため,人為的影響の小さい場所での研究が難しい.幸い,加布里では,厳密な漁獲管理が行われているため,人為的影響が小さく,ハマグリが優占種となっている.一方,白川河口は国内最大のハマグリの産地であるが,乱獲のためか,密度は低い.

調査の結果、ハマグリの稚貝は成長するにしたがって,河川感潮域から海域に移動することが明らかになった.例えば,2005年年級群は2006年6月までは河川に多く(100〜200/m2),多くは殻長2〜5mmであったが,7月以降は海域で増加した(殻長6〜15mm).稚貝の成長は遅く,孵化2年後でも殻長は6〜20mmに過ぎなかった.一方,成貝の成長は比較的速く,2006年1月に殻長22mmの2003年年級群は翌年7月には殻長35mmに成長した.なお、成貝の生残率は高く,急激な密度減少は,梅雨や冬期にも見られなかった.

現在明らかになりつつあるハマグリの生活史特性(比較的速い成長,低い死亡率,長い寿命,新規加入量の年変動)は,白川河口においても本種の資源管理が有効であることを示唆している.

日本生態学会