| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-11

飼育下トゲスギミドリイシから産まれた胚・幼生の健康状態

*大久保 奈弥(横浜国立大学)・ 山本 広美(沖縄美ら海水族館)・ 仲矢 史雄(お茶の水女子大学)・ 岡地 賢((有)コーラルクエスト)

沖縄美ら海水族館では、野外で採取したトゲスギミドリイシが増殖し、毎年一斉産卵をおこなっている。しかし、これら水槽サンゴは歪な形をし、病気が発生すると全滅する等、長期飼育による健康状態が不明である。サンゴ礁の荒廃が進む中、水族館においてサンゴ資源を保全・増殖するための事例研究が必要だが、水槽サンゴの一斉産卵は例が無いので、産まれた配偶子の「質」に関する報告はない。そこで、野外に生息する同種サンゴと交配実験を行い、受精率と生残率、また世界で初めて「一個体」での酸素消費量を測定した。その結果、水槽サンゴは野外サンゴと交配可能であったが、水槽サンゴ同士の受精率と生残率が一番高かった。また酸素消費量は、水槽サンゴから産まれた胚・幼生の方が野生サンゴのそれらよりも一日長く高いレベルを保った。さらに、産卵前の配偶子形成を組織学的観察により調べたところ、水槽サンゴは野生サンゴよりも大きな卵母細胞を持っていたことから、当初の予想とは逆に、水槽で育てられたサンゴが野生に生息するサンゴよりも質の高い配偶子を形成することがわかった。その理由として、飼育環境下に魚等の捕食者が少ない、台風等による群体サイズの減少がないといった、生物的撹乱や物理的撹乱の少ないことが考えられた。また、サンゴ群体が十分なエネルギーストックを持つ場合、卵母細胞の数を増やすのではなく、卵体積を大きくする(=質を上げる)こともわかった。今後は、野生群体との定期的な交換やブリーディングローンのようなサンゴ群体の貸し借りによって、水槽サンゴの遺伝的多様性を高める必要があるだろう。

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