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一般講演(口頭発表) A1-15
本研究は、環境保全型の農業がいかにあるべきかについて明らかにするために、耕起方法が水田生態系に与える影響を吟味した。
無農薬・無化学肥料の栽培を継続している水田で耕起条件の異なる3つの処理区(不耕起区〔NT〕、代かきのみ行った区〔NS〕、耕起・代かきを行った区〔CT〕)において土壌動物と水生動物を調査し、処理間で比較した。土壌動物は、一年を通して線虫、ダニ・トビムシ、原生動物の個体数を計数した。水生動物は、湛水期間中に出現した種と種ごとの個体数を調査した。さらに水生甲虫については、多様度指数H’と平均個体サイズを算出した。
土壌動物は、原生動物のみが全ての処理区で多く観察された。ダニ・トビムシ及び線虫は、湛水期間中にほとんど観察することができなかった。土壌動物の個体数は、原生動物を除いては耕起条件ではなく、湛水に強く影響を受け、湛水状態にある水田内の土壌動物の個体数と耕起条件との関係は、明らかではなかった。
水生動物の個体数密度は、蜻蛉目の幼虫がCTにおいて有意に高かったが、他の種では、個体数密度と多様度に処理間差はなかった。一方で、水生甲虫の平均個体サイズは処理間に有意な差が見られ、耕起、代かきを行ったNSまたはCTにおいて大きくなった。これは、NTに比較して、大型種の水生甲虫が優占していたためである。NSとCTはNTと比較して灌漑水の下方への浸透量が小さく、湛水深が比較的安定していた。よって、水条件が安定していたことが、大型種の水生甲虫の生息に貢献していたと推察される。これは、水田環境において水生動物を保全するには、湛水深を一定に保つことが重要であることを示唆している。そのためには代かきを行うこと、中干しを控えること、そして灌漑排水の調節によって、水環境を安定させる必要があると考えられる。