| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-01

ニホンジカの過増加を示す指標

*梶光一(農工大・農),宮木雅美(道環境研),寺澤和彦(道立林試),明石信廣(道立林試),宇野裕之(道環境研)

ニホンジカの分布拡大と生息数の増加は全国的な規模で生じており、農林業被害のみならず、国立公園などの自然公園の自然植生への強い影響によって、生物多様性の低下や土壌浸食などの負の影響をもたらしている。ニホンジカの管理は、農林業被害や自然植生への負の影響の低減などを目的に、管理の価値基準に基づいて適正密度あるいは適正生息数を設定して個体数管理が実施されている。農林業被害に対しては被害額を半減するなどの目標設定は比較的明確にできるものの、自然公園における適正密度の数値目標はその根拠が乏しいことや正確な生息数推定が困難で、過小評価されやすいことなどが管理上の問題となっている。そこで、生息数の増加にともなって生じるシカ個体群と植生の一連の状態の変化を追跡することによって、過増加を示す指標の検討を行った。ニホンジカの爆発的な増加過程では、植生に目立った影響が出始めても、シカ個体群の増加率や繁殖力には影響がなく、高密度あるいは崩壊直前となって、ようやく体の小型化や初産年齢の上昇が生じており、ニホンジカは密度効果が生じにくいことが明らかになった。それに対し植生ではシカの低中密度においても、生息密度の上昇にともない枝葉の利用可能量の減少、樹高成長阻害、幹折りを伴う摂食、林床植物の減少、採食ラインの形成などの変化が認められた。ササに影響が出始めたのは高密度となってからであり、矮小化、葉量減少、被度減少が生じ、桿高が生息密度の上昇に対して敏感であった。以上のようにシカの生息密度上昇に伴うシカ個体群ならびに植生の一連の状態の変化を過増加の程度を示す指標として用いることが可能である。

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