| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-05

断崖における生物多様性とその固有性

鹿野雄一(九大工院)

陸地生態系において「垂直断崖」は接近が困難な地形であるため、その生物多様性については本邦においてこれまでにほとんど調べられたことはなかった。著者は、断崖地形のよく発達した三重県大台ケ原地域において、懸垂下降調査により、おもにシダ類以上の植物を中心に断崖の生物多様性を調査した。さらに断崖の周囲森林で同様の調査をすることで、それらの生物多様性を比較した。その結果、断崖では、マツバランやイワヒバなど固有の植物が確認され、バイオマスこそ低いものの、面積あたりの種数や生物多様性指数などにおいては周囲森林に劣らぬ値を示した。断崖は、陸地生態系の中で特異的な生物多様性を有しており、その結果全体の多様性にも大きく貢献していると考えられる。また、植物体が定着しているマイクロスケールの傾斜角を調べたところ、種によって違いが見られた。たとえばマツバラン・セッコク・マルバウツギなどは80〜90度ほどの垂直もしくはそれ以上のオーバーハングで定着していたのに対し、ケイビラン・ツツジ類などは60〜70度ほどの比較的ゆるい傾斜を利用していた。植物だけでなく、カジカガエル・アオダイショウなどの脊椎動物や、クモ類・ハチ類などの無脊椎動物も断崖を利用しており、それらについても事例的に紹介する。

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