| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-09

函南原生林における常緑広葉樹林から落葉広葉樹林への林冠優占種実生の発芽・定着数の変化

*澤田佳美(東京農大・院・林学),中村幸人(東京農大・院・林学),武生雅明(東京農大・地域環境),吉田圭一郎(横浜国立大),磯谷達宏(国士舘大学・文)

暖温帯の山地における標高の上昇に伴う常緑広葉樹林から落葉広葉樹林への移行を林冠優占種実生の発芽・定着の点から解明することを目的とし,箱根・函南原生林で調査を行った.常緑広葉樹が優占する標高600m,落葉広葉樹が優占する標高800m,中間の標高700mに設置した1haの調査区において,1m2の実生調査区を規則的に81個設置し,各実生調査区内において林冠優占種の当年生実生を対象に,2004年〜2006年に追跡調査を行った.実生調査区41個において光量子束密度,体積含水率,斜度,調査区内での相対標高,リター層の厚さ,落葉落枝量,ササの植被率,実生調査区の周囲400m2内の同種成木のBA合計を測定した。常緑樹のアカガシとイヌガシの発芽数および定着数は低標高で多かったが,定着率は標高による違いはなかった.ヒメシャラやオオモミジ等の落葉樹では,発芽数は標高によって大差はみられなかったが,定着数と定着率は低標高で低かった.各樹種の発芽数および定着数に影響する要因を調べた結果,常緑樹の発芽数と定着数は標高と同種成木のBAとに正の相関を示し,落葉樹の発芽数は同種成木のBAと正の相関を示した.ヒメシャラの定着数は4月の光条件と正,5月の落葉落枝量と負の相関を示し,オオモミジの定着数は相対標高と正,斜度と負の相関を示した.その他の落葉樹の定着数は少なく,林内ではほとんど生き残らなかった.常緑樹のBAは4月の光条件と負,5月の落葉落枝量と正の相関を示すことから,低標高において常緑樹の優占度が高くなると,発芽期の光条件が悪化し,また発芽直後に常緑樹の落葉に被覆されるため,落葉樹の発芽・定着数が制限されると考えられる.一方,常緑樹は標高の上昇に伴う母樹数の減少が発芽数を制限すると考えられた.

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