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一般講演(口頭発表) C1-10
【研究背景】今後予想される気候変化に対する植生の応答を予測するためには,植生帯境界(Ecotone)の決定機構を明らかにする必要がある.常緑−夏緑広葉樹林帯境界部にある函南原生林での既存研究では,常緑広葉樹の実生の定着率は変化しない一方で,分布上限で常緑広葉樹の個体サイズが低下することが明らかとなった.これらのことから,常緑・夏緑広葉樹林の境界の形成には分布上限における常緑広葉樹の生長抑制が関わることが予想される.
【目的】本研究では函南原生林の林冠優占種を対象に幹生長量の標高変化を比較し,常緑−夏緑広葉樹林帯Ecotoneにおける常緑および夏緑広葉樹の生長特性を明らかにすることを目的とした.
【調査方法】函南原生林内の常緑広葉樹林帯上部(標高600m),境界部(標高700m),および夏緑広葉樹林帯下部(標高800m)において,アカガシとブナの主幹に計75個のデンドロメータを設置し,幹生長量を月1回計測した.また,標高600mと800mでは気温と相対湿度の連続観測を行った.調査は2006年1月〜12月に実施した.
【結果と考察】林冠優占種の幹生長量には標高変化が認められ,アカガシの幹生長量は標高の上昇に伴い低下した.また,分布上限の標高800mでのアカガシの幹の生長が,標高600mや700mと比べて1〜2ヶ月遅れていた.標高800mの年平均気温は標高600mに比べ0.9℃低く,特に冬期には気温差が最大2.4℃まで拡大した.これらのことから函南原生林では,分布上限において常緑広葉樹の生長が抑制されることで個体サイズが低下し,植生帯境界が形成されると考えられた.また,常緑広葉樹の生長が抑制される要因として,(1)生育期間の短縮,(2)冬期の低温,の2つの可能性が示唆された.