| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-12

植生モデルSEIB-DGVMによる、東シベリアカラマツ林の植生構造と物質循環のモデリング

*佐藤永(海洋研究開発機構), 小林秀樹(海洋研究開発機構), ニコラ・デルバール(CESBIO)

東シベリアのカラマツ林における植生動態と、それに連動した炭素・水循環とをシミュレートするモデルを開発した。基本モデルとして、個体ベースで構築された植生モデルSEIB-DGVMを採用し、ここにカラマツ林で観測されたアロメトリー・アロケーション・フェノロジーを経験則として導入した。また、永久凍土の存在が土壌中の水循環に与える効果を、簡単な機構ベースによる定式として導入した。パラメーター調整の後、このモデルは森林火災後の植生遷移と炭素動態変化、また成熟林における水フラックスの季節変動パターンを適切に再現した。さらに、このモデルを東シベリアのカラマツ優占地帯全域に適用したところ、葉面積指数の緯度方向における勾配を適切に再現した。このモデルを用いた感度分析の結果、東シベリアで森林生態系が存続するためには、永久凍土が存在することが必要であることが示された。その主な理由は、東シベリアのカラマツ林帯は、年降水量が200〜300mm程度の地域に広がっており、このように低い降水量の元で森林生態系が存続するためには、永久凍土が土壌水の地下への浸透を防ぐことが事が必須だからである。他方、気候モデルは、永久凍土が今世紀末までにカラマツ林帯のほぼ全域から消失することを予測しており、したがって今回の結果は、東シベリア全域のカラマツ林が今世紀中に崩壊する可能性を示唆する。

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