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一般講演(口頭発表) C1-13
日本のシイ類は、照葉樹林の主要な構成種であり、関東以南の西日本を分布域とし、一般的に海岸部がスダジイで内陸部がツブラジイとされている。しかし、ほとんど場合、二次林や社寺林などの残存林として存在しているのが現状であり、社寺林については植栽等の人為的な攪乱による影響があるものと考えられる。日本に分布するシイ類についてツブラジイとスダジイを明確に分けて分布を明らかにすることは、今後、シイ林の成立史の研究を発展させる上でも重要である。本研究では、天然林が残る南九州において、葉の表皮組織の構造に基づいて、ツブラジイとスダジイおよび雑種として判別し、シイ類の垂直分布を明らかにすることを目的とした。
調査した結果、内陸部の標高600m以上の霧島ではスダジイのみが分布し、内陸部でも標高の低い(標高200m)溝辺町ではツブラジイが分布していた。また、大隅半島の海岸部に位置する稲尾岳(標高959m)では、シイの垂直分布の上限(914m)にはスダジイのみが分布しており、標高が低くなると雑種やツブラジイが存在していた。一方で、鹿児島半島最南端の開聞岳ではツブラジイの分布は確認出来ず、雑種個体がわずかに存在し、そのほとんどがスダジイであった。しかし、内陸部で標高200m以下の地域ではツブラジイや雑種が分布していた。
本調査により、ツブラジイとスダジイについて、水平方向の海岸部と内陸、垂直分布の標高では、スダジイがともに分布域が広く、ツブラジイは内陸部でも標高の低い地域(400m以内)に分布が集中しているが、海岸部であっても標高の高い山岳については、垂直分布の上限から、スダジイ、ツブラジイ、スダジイであることが示された。また、雑種個体についての垂直分布はツブラジイよりも高くスダジイよりも低い両種の分布域の間に存在しており、水平方向についても同じく両種の分布域の間に存在していることが明らかになった。