| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-02

宇治川における外来腹口吸虫類の動態 ―経年変動と分布拡大―

*浦部美佐子(滋賀県立大・環境科学),田中正治(大阪府環境農林水産総合研究所・水生生物セ)・中村大悟(滋賀県立大・環境科学)

ナマズ腹口吸虫Parabucephalopsis parasiluriは2000年に宇治川の魚類から発見された外来の魚病原寄生虫であり、冬期に宇治川および淀川の魚類にメタセルカリアが濃厚に感染し,寄生虫症を引き起こしている。

本種による魚病の程度には年変動がある。そこで、大阪府水生生物センターの定期採集によるオイカワの感染量データ(2001〜2007年:2000年は魚病の定性的情報のみ)を用い、本寄生虫の発生量と関連の見られる環境条件の調査を行った。その結果、感染量は魚病発生期(1月)の淀川の平均流量がおおよそ150 t/秒以下の年に多くなる傾向がみられた。これは、病原体であるセルカリアは河床に生息するカワヒバリガイから水中に供給されているため、流量の多い年には希釈によって水中の濃度が低下することが原因ではないかと思われる。宇治川1月の平均水温、前年秋のカワヒバリガイの感染率、および淀川大堰の操作による水位とオイカワの感染量に関連は見られなかった。

本吸虫は今まで、天ケ瀬ダム下流の水域からのみ記録されていた。ところが、2007年6月に瀬田川で捕獲されたビワコオオナマズ1個体の直腸から本種成虫が個体発見され, 2007年11月には瀬田川洗堰下流側で採集されたカワヒバリガイ247個体のうち2個体に腹口吸虫の感染が見つかり、本吸虫が瀬田川まで分布を拡大していることが明らかになった。本吸虫は琵琶湖内のカワヒバリガイからは未発見であるが,瀬田川洗堰は魚類が自由に往来できる構造のため,遠からず琵琶湖内からも本吸虫が発見されると思われる。本吸虫が琵琶湖内に侵入した場合の生態系への影響予測のため、止水域でのセルカリアやミラシジウムの生残日数や、まだ感受性の調べられていない魚類の調査が急務である。

日本生態学会