| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-06

水域の物理的構造が改変する外来種アメリカザリガニからトンボ類への捕食圧

*保崎有香・宮下直(東大・院・農)

アメリカザリガニは在来生態系に大きな影響を及ぼす侵略的外来種として知られている。静岡県桶ヶ谷沼はザリガニによる被害が報告されている顕著な事例のひとつで、1999年にザリガニが大発生して以来、絶滅危惧種のベッコウトンボなどの在来生物が激減している。ザリガニのインパクトへの対策としては、駆除による直接的な個体数管理が一般的であるが、既に高密度化している場合、駆除のみで個体数を抑制することは困難なことが多い。これに対して、本研究では、水域の物理的構造を改変することによって、ザリガニからトンボ類に対しての捕食圧を間接的に抑制する手法の有効性を検証した。そのために、ザリガニの密度や捕食効率に影響すると考えられるリター量と水草量を操作し、ザリガニの個体数やヤゴに対する捕食圧の変化を調べた。

まず、ザリガニの個体数に影響する環境要因として、ザリガニ密度と正の相関が高いリター量を操作し、ザリガニに与える影響を調べた。その結果、リター量の減少はザリガニの個体数に変化をもたらさないが、体サイズは小型にシフトすることがわかった。次に、水底環境であるリター量と水中環境である水草量を操作した結果、どちらも多い方がザリガニからの捕食圧は軽減されたが、水草の方がその効果が強いことがわかった。さらに水中環境の基質の複雑さを段階的に設定した結果、より複雑な方がヤゴへの捕食圧が軽減された。

以上の結果より、ザリガニの間接的な管理手法として、リター量の操作と、複雑な構造をもつ水中の基質の創出が有効であることが示唆された。外来種の個体数管理に対して、今後は個体数に間接的に影響する要因の操作も考慮に入れ、直接的な駆除と併用することが効果的であると考えられた。

日本生態学会