| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-02

卵黄内のテストステロンは雛間競争を緩和するのか?

富田直樹(大阪市大・院理),酒井秀嗣,佐藤恵(日大・歯),日阪万里子,高木昌興(大阪市大・院理)

鳥類では、卵黄内に含まれるテストステロン(T)の濃度による母性効果が報告され、そのTが雛の餌乞い行動を活発にし、成長速度や生残率を増加させる効果を持つことが明らかにされてきた。さらに、このような働きを持つTの濃度は、非同時孵化するクラッチ内では産卵順とともに増加することが知られている。これは非同時孵化によって生じる雛間の競争力の差を補正し、クラッチ内で後に孵化した雛の生残率を高めるための雌親の操作であることが示唆されている。

これまでの調査から、ウミネコでは、同じクラッチ内の雛の孵化時期は巣ごとに異なり、卵サイズは産卵順とともに小さくなることが明らかになっている。一方、卵黄内T濃度は他の鳥類と同様に産卵順の遅い卵ほど高くなっており、雛間競争が緩和されることが示唆されている。そこで私たちは、ウミネコの卵サイズ、孵化タイミング、および卵黄内のTをとおして雛の成長に与える母性効果を検証した。さらに、雛の成長は、雌雄で異なることが知られているので雛の性も考慮した。

ウミネコでクラッチサイズの頻度が最も高い2卵の巣において、最初に孵化した雛(A雛)と後に孵化した雛(B雛)間で、成長曲線から得られた漸近値と成長速度に違いはなかった。しかし、A雛の漸近値は、雄の方が大きくなり、B雛の成長速度に孵化タイミングと卵サイズが影響し、卵サイズの影響には性差がみられた。一方、雛間競争が生じないような1雛だけで成長した雛では、漸近値に対して卵黄内Tの効果がみられ、その効果は性によって異なっていた。雛間競争において、卵黄内Tの効果は検出されなかったが、その効果は雛の成長の性差に関係していることが示唆された。

日本生態学会