| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) D1-06
ある生物にとっての資源の利用価値は、生息する地域のもつ環境条件によって異なる。そのため、資源への選好性は同一種内でも生息する地域によって異なると考えられる。ヤドカリ類にとって貝殻は成長量や繁殖などに影響を与える重要な資源であり、これまで貝殻の利用様式や選好性、貝殻の選好性に影響を与える要因について数多くの研究がなされてきた。しかし同一種内で、地域集団による貝殻種の選好性の違いを検討した例はほとんどない。
本研究は、北海道南部から九州までの岩礁性潮間帯に広く分布するホンヤドカリPagurus filholiを材料に、その貝殻種選好性を下田と函館の個体群間で比較し、両地域のもつ環境特性の相違と関連付けて考察することを目的とした。下田は函館に比べて夏季の岩盤表面温度が高温であったことから、より乾燥条件が厳しいといえる。また浅海の捕食圧は一般に緯度の低下にともなって高くなることから、下田の方が函館より捕食圧が高いとみられる。
両地域の個体群について、イシダタミとイボニシの2種の貝殻を用いて選好実験を行なったところ、下田の個体群はイボニシを好んだが、函館の個体群はイシダタミを好むという全く逆の選好性が示された。両種の貝殻の特性として、殻の硬さと重さ、並びに乾燥による影響の強さを検討した。その結果、イボニシはイシダタミに比べて硬く、重く、また乾燥下での致死率はイシダタミの殻に入ったホンヤドカリの方がイボニシの殻に入ったホンヤドカリよりも高かった。
乾燥が厳しく捕食圧が高い下田の個体群は耐乾燥性と被食回避に有益なイボニシを好んだと考えられる。一方、乾燥ストレスや捕食圧の低い函館の個体群では、重量上の負荷が少ない方のイシダタミを好んだと推測できる。