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一般講演(口頭発表) D1-07
多くの水産種において、大型個体を選択的に漁獲した結果、平均体長や最小成熟体長が低下したことが報告されており、個体数およびバイオマスの減少をもたらすと考えられている。それに対し東京湾のシャコOratosquilla oratoriaでは、最小成熟体長の低下と同時に、産卵が盛んな季節が変化した。本研究では、このため生残に過酷な季節が回避され、個体数減少が緩和されたと考え、これを数理モデルのシミュレーションで確かめた。
東京湾シャコは1970年代末から小型化傾向にあり、また1992年から漁獲量が減少し、漁業の対象となる最小の体長も低下した。さらに、1980年代からは従来は未成熟であった小型個体も産卵することが確認された。ただし、大型個体の産卵盛期が従来から春であるのに対し、小型個体は夏である。また近年、生まれた季節によって着底し成体になるまでの生残率に差があることが示唆されている。その主要因は、春生まれが着底する夏の東京湾奥では底層水が貧酸素化するが、夏生まれが着底する秋には酸素濃度が回復することだと推察される。そこでモデルでは0歳個体を春生まれと夏生まれに、1歳と2歳以上を大型と小型の2段階に分け、個体数の年推移を表すためそれぞれの成長・生残・再生産等のパラメタ値を文献より推定した。従来からの生活史に変化がない、すなわち漁業の対象となる個体の体長が大きく、大型個体のみが産卵すると仮定したシミュレーションでは個体数が実データより大きく減少した一方、夏の貧酸素化が起こらないと仮定した場合には個体数が多かった。これらの結果から、小型個体から生まれた個体が貧酸素期を回避できたため個体群に加入することができ、全個体数の減少が緩和されている可能性が示唆された。また、個体群の維持には小型個体の漁獲率減少が効果的であることが確認された。