| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-12

標識放流による魚の移動率と漁獲率のベイズ推定:大西洋クロマグロへの適用

黒田啓行(水研セ・遠洋水研), Murdoch McAllister(ブリティッシュ・コロンビア大), Barbara Block, Gareth Lawson, Jake Nogueira, Steven Teo(スタンフォード大)

魚の移動回遊や死亡率などを調べるために、標識放流調査が行われる。北大西洋に分布する大西洋クロマグロは長距離の移動がほとんどないと考えられてきたため、西経45度線を境に東西別々に漁業資源管理が行われている。ところが、Blockらの記録型電子標識を用いた調査により、東西間移動が稀でないことが明らかになった。適切な資源管理には個体群パラメータの正確な推定が不可欠である。そこで、主にアメリカ東海岸から放流された複数種類の標識データを解析するため、空間構造を考慮したベイズ統計モデルを開発し、東西間の移動率および漁獲率を推定した。

基本となる個体群動態モデルはコホートを単位とした年齢構成モデルで、移動率は年齢に依存すると仮定した。また不確実性を明示的に取り扱うため、観測誤差とプロセス誤差を考慮した状態空間モデルとした。ベイズ推定は推定値の不確実性の定量的な評価に適しているが、本研究では逐次型ベイズ法を用いた。これは、主要パラメータについて、ある解析で得られた事後分布を次の解析の事前分布として用いることで、推定値を順次更新していく手法で、複雑な構造をもつモデルをシンプルなモデルに分割することができる。

解析の結果、標識の情報量に応じて、パラメータの推定値が更新されることが示された。特に西部の漁獲率は事前分布に比べてより精確になり、逐次的アプローチがうまく機能したことを示唆している。現在の漁獲死亡率は西部より東部で高かった。また移動率はこれまで考えられていたよりも高く、西から東への移動率は成長に伴って高くなることが明らかになった。こうした結果は実際の資源管理に生かされようとしている。

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