| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-13

水系ネットワークにおけるフナ個体群の繁殖タイミングおよび再生産量:水田水路・河川・湖間の比較

*小関右介(中央水研),川之辺素一(長野水試),箱山 洋(中央水研)

魚類を含む多くの動物は、通常利用しない場所を繁殖場とし、季節的な移動を行う。こうした季節的な生息地利用様式は、今日生息地の破壊や分断化が進む中で個体群の存続に重要な意味をもつ。フナは繁殖期に、湖から流入河川、さらには水田水路へと移動し、産卵を行うことが知られている。これらの生息地は、水温条件や餌生物量など、仔魚の生育場としての質の点で異なっていると考えられ、それゆえ生息地間で再生産量に違いが生じていると予想される。そこで、諏訪湖ー流入河川ー周辺水田水路において、2006、2007年の2シーズンにわたって、生息地の質(水温、および動物プランクトン密度)、および仔魚の出現時期、密度、サイズ(体長)を調査した。仔魚の出現ピークは、水田水路においてより早い傾向がみられ、他の環境に比べて繁殖タイミングがより早いことが示唆された。仔魚密度は、水田水路>流入河川>湖の順で高く、再生産量も同様のパターンを示すと考えられた。仔魚密度同様、体サイズも水田水路>流入河川>湖という有意な傾向を示し、これにより生息地間の再生産量の違いはさらに大きくなると考えられた。これらのパターンと、水温、および動物プランクトン密度との関係について考察する。水田水路において大きな再生産が行われているという本研究の結論は、たとえ水系の上流部分の分断化でもその影響は小さくないという重要な洞察を与える。この研究は環境省地球環境保全等試験研究費「在来淡水魚保全の為の生息地ネットワーク形成技術に関する研究」平成18-20年度において行った。

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