| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-14

ブナ豊作後の野ネズミ個体群の増加と繁殖成功

*三田瞬一,増谷優(秋田県立大学・森林科学),星野大介(森林総研東北),藤晋一,星崎和彦(秋田県立大学・森林科学)

一般に,野ネズミの個体数はブナ豊作年の翌年に急激に増加する。本研究では、奥羽山系のカヌマ沢試験地(岩手県)で優占するアカネズミおよびヒメネズミについて、ブナ豊作年の翌年に個体数が急増する要因を明らかにするため次の4つの仮説を検証した。1)越冬生残率が上昇する;2)雌1個体あたりの年間の繁殖回数が増加する; 3)雌1成体あたりの1腹産仔数が増加する;4)春仔の生残率が例年に比べて高い。ネズミ捕獲調査は、試験地内に生け捕り式トラップを格子状に設置し(00‐05年は0.49haに64個、06‐07年は1.6haに118個)、原則1ヶ月に一回、3日3晩連続で行った。捕獲したネズミは指切り法により標識し、種・性別・繁殖状態・体重を記録し、捕獲地点で放逐した。また、採取した組織片から定法によりDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカーによる多型解析を行った。両種とも、幼体・成体の越冬生残率及び秋期個体群に占める幼体の割合は、ブナ堅果の落下総エネルギー量と正の有意な相関を示した。春仔の生残率にブナの豊凶との関連性は認められなかった。ブナ豊作年の翌年は、出産を経験した雌の数が多く、雌1個体が年間に出産した仔の数も翌々年に比べて多い傾向があった。雌成体1個体あたりの春繁殖期の出産回数は例年では1回であるのに対し、ブナ豊作年翌年では2回出産した個体が比較的多かった。以上の結果は仮説1)から3)を支持する。ブナ豊作後の野ネズミの増加のメカニズムとしては、越冬生残率が高くなることで翌年に繁殖可能な個体が例年より増加し、さらに翌年の雌1個体の出産回数および出産する仔の数が増加することが重要であると考えられた。

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