| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-15

東北〜近畿の連続個体群におけるツキノワグマの遺伝構成

*大西尚樹(森林総研・関西),鵜野レイナ(慶大・先端生命),石橋靖幸(森林総研・北海道),玉手英利(山形大・理),大井徹(森林総研・関西)

本州におけるツキノワグマは琵琶湖以西ではいくつかの孤立した地域個体群として分布しているが,琵琶湖以東では青森県南部にまで大きく連続して分布している.琵琶湖以西の個体群についてはミトコンドリアDNAを用いた系統地理学的研究がすでに行われ,個体群に特異的なハプロタイプが多数観察されている.本研究では琵琶湖以東の個体群を対象に系統地理学的解析を行った.

琵琶湖〜岩手県にかけて捕獲された個体の筋肉,血液,体毛等からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNA D-loop領域の塩基配列(約700bp)を決定した.556個体分の標本を分析した結果,合計38ハプロタイプが観察された.最も多いタイプは197個体で確認され,滋賀県から岩手県にかけて広く分布していたが,その他のタイプは地域特異的に分布していた.Nested Clade Analysisによる解析では,いくつかのサブクレードで「距離による隔離を伴う制限された遺伝子流動」や「異所的に分化」が検出されたが,全体的にはハプロタイプの系統関係と地理的分布に有意な関連性は見られなかった.Spatial Analysis of Molecular Varianceによる解析では,琵琶湖〜岩手県にかけて15のグループに分けられることがわかった.そのグループ分けに従う場合,各グループの塩基多様度と緯度の間に負の関係が検出された(P < 0.01).

最終氷期にはツキノワグマにとって好適な環境である広葉樹林は分布域が限定されたため,それに伴いツキノワグマの生息域も縮小したと考えられる.最終氷期の個体数減少時の遺伝的浮動や,その後の分布域の拡大に伴う創始者効果が,現在の近畿〜東北の個体群の遺伝構成に影響していると考えられる.

日本生態学会