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一般講演(口頭発表) D2-05
種子の豊凶、実生・稚樹の発生・消失過程は、森林の更新を左右する重要な要因である。亜高山帯針葉樹林では多くの場合林床に多数の針葉樹稚樹や実生がみられるが、オオシラビソ稚樹が地表と根張り・倒木の両方にみられるのに対し、コメツガ稚樹は根張り・倒木上に限定されていることが報告されている(Sugita & Tani, 2001)。そのような定着場所のちがいの成立過程を明らかにするため種子の豊凶を10年間、実生の発生と生残を11年間追跡し、実生・稚樹バンクの成立状況を解析した。
調査地は早池峰山の小田越試験地である。1997年に開口部面積0.5m2のシードトラップを25個設置し、健全種子、虫害種子、しいなに分けて種子数を数えた。地表上に1m×1mのコドラートを30個、根張り・倒木上に0.3〜0.9m2のコドラートを12個(計6.3m2)設置し、コメツガとオオシラビソの実生を個体識別して、生残を2007年までセンサスした。
オオシラビソは1998、2003、2005年に豊作となり、その間にも小規模な結実がみられたが、コメツガは1998と2005年の豊作以外にはほとんど結実がみられなかった。豊作年の翌年には多数の実生が発生した。実生の消失は当年生のあいだが急激であり、とくにコメツガの減少が著しかったが、1年生以降は緩やかとなった。根張り・倒木上では、両樹種とも比較的消失が緩やかで、コホートが消滅する前に次のコホートが補充され、10本/m2程度の密度が維持されていた。しかし、地表上では、オオシラビソが数本/m2以上の密度を維持していたのに対し、コメツガは大発生直後に高い実生密度を示したものの、速やかに減少して、まったく実生を欠く期間がみられた。以上のことから、コメツガ稚樹が根張り・倒木上に限定されているのは、地表上において実生バンクが維持されないためであると考えられる。