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一般講演(口頭発表) D2-06
(目的)サトウカエデ (Acer saccharum) とアメリカブナ (Fagus grandifolia) は北米で最も優占する樹種であるが,その共存についてはよく分かっていない.ブナ・カエデの共存仮説の一つとして攪乱仮説がある.それはブナの方が耐陰性は高いが,林冠ギャップでの成長はカエデの方が高いため,林冠層の不均一性が2種の共存を促進しているという説である.そこで林冠ギャップに対する稚樹の成長反応が2種の共存に重要かどうかを明らかにするため,次の2点について検討した.1)林冠下において,ブナの方がカエデよりも個体あたりの葉量と純生産量が高いか?2)ギャップにおいて,カエデはブナよりも個体あたりの純生産量を高めることで樹高成長を高めているのか?
(方法)調査はカナダ南東部の分布北限のブナ・カエデ林でおいて行った.林冠下とギャップにおけるブナとカエデの稚樹のアロメトリーと樹高成長率を比較した.
(結果)林冠下ではブナはカエデよりも大きな樹冠投影面積,個体あたりの葉面積,純生産量を示した.ギャップでは2種ともに個体あたりの純生産量は増加したが,その増加率は2種間で差はなく,ギャップでもブナの方がカエデよりも純生産量は高かった.樹高成長率も2種ともにギャップで増加したが,その増加率はブナの方がカエデよりも高かった.
(まとめ)林冠下,ギャップともに,ブナの方がカエデよりも有利に更新していた.このことは,この分布北限における2種の共存は耐陰性とギャップでの成長だけでは説明できないことを意味している.別の研究から,カエデはブナよりも乾燥した場所に多く分布していることが分かった.すなわち,この分布北限におけるブナとカエデの共存は2種の成長特性の種間差よりもランドスケープレベルでの土壌条件の異質性によって維持されていることが示唆された.