| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-12

大きい魚は冷たい水を好む:体サイズに依存した最適成長水温

*森田健太郎(北水研),福若雅章(北水研),谷全尚樹(北大院水),山村織(北水研)

一般に、大きい魚は小さい魚よりも冷たい場所を好む傾向にある。つまり、大きい魚ほど深いところに分布したり、高緯度に分布したりすることが知られている。簡単な生物エネルギーモデルを用いて、成長率を最大化する温度と体サイズの関係を調べた結果、同化と異化の両方が水温に対する増加関数であり、成長速度が年齢とともに低下する場合には、成長率を最大化する最適水温が体サイズとともに低下することが分かった。このメカニズムが低温域への個体発生的ハビタットシフトをもたらすと考え、太平洋サケ属魚類を対象として調べた。カラフトマスを用いた海水飼育実験の結果、体サイズと成長量の関係は負の傾きを持つ直線に回帰され、水温の増加に従い、切片と傾きの絶対値が増加した。つまり、体サイズが小さい場合には高水温の方が期待される成長量が大きいのに対し、体サイズが大きい場合には低水温の方が期待される成長量が大きかった。次に、北太平洋の北緯41度から49度の範囲の38地点でトロールによって捕獲したサケ属魚類について、地点ごとの体サイズおよび肥満度と水温の関係を調べた。捕獲された5種の太平洋サケ属魚類すべてにおいて、体サイズと水温の間に負の相関が認められた。データ数の多いベニザケ、サケ、カラフトマスについて、体サイズ別に肥満度と水温の関係を調べた結果、大型魚は水温が低いほど肥満度が高かったのに対し、小型魚は水温が高いほど肥満度が高かった。なお、飼育実験において、肥満度と成長率には正の相関があったことから、大型魚にとっては水温の低い場所ほど成長が良く、小型魚にとっては水温の高い場所ほど成長が良いと考えられた。低温域への個体発生的ハビタットシフトは、成長を高めるための適応的な行動と考えられた。

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