| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-13

魚の卵はなぜ小さいか

*西村欣也(北大・水産),星野昇(北海道中央水試)

魚類の卵サイズは概して小さい。アジやマグロの卵のような水中を浮遊する浮遊卵の平均卵径は1.2mm、ハタハタやニシンの卵のような石や海藻に付着される付着卵や、マダラの卵のような水底に沈む沈性卵の平均卵径は2.4mm程度である。また、親の保護を受けるトゲウオやカジカの卵の平均卵径は2.6mm程度である。魚類の卵サイズが概して小さいことと、種間・地域個体群間で卵サイズのバリエーションが見られることについて幾つかの独立な説明が提出されている。私たちは、魚類の卵サイズのバリエーションを統一的に説明する。水は空気の1000倍の密度を持つ媒体であり、水界の生物は媒体の動きに翻弄される。浮遊卵は拡散や移流作用を受け、産卵された場所にとどまることはできない。卵が親の保護を受けるためには、産卵された場所にとどまるための仕組みが必要である。付着卵や沈性卵は、卵が産卵場から離れず留まることができる。付着卵や沈性卵であること、あるいは何らかの方法で親もとに卵を留める仕組みが、卵が親の保護を受けるのに先立って必要となる。私たちは、産卵場所から卵を分散させる媒体の撹乱力の大小が、魚卵の3つの形質(卵のタイプ(浮遊性vs.付着性・沈性)、親による卵保護の程度、卵サイズ)に対する選択圧となると考え、これらの形質が撹乱力に対する適応としてどのようにデザインされるかを調べるため、数理モデルによる分析を行った。モデルの分析から以下のことが導かれた。1)撹乱力の小さな環境では、親の保護がある大きなサイズの付着性・沈性の卵タイプが適応的である。2) 撹乱力が大きな環境では、親の卵保護がない大きめの付着性・沈性の卵が適応的である。3)さらに撹乱力が大きな環境では、親の保護がない小さなサイズの浮遊性の卵が適応的である。

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