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一般講演(口頭発表) E1-01
インド洋および西太平洋のサンゴ礁域で最も多様かつ豊富な種群であるミドリイシ属サンゴ(Acropora)は、外洋に面した礁斜面において、しばしば鉛直帯状分布を示す。群体型が種によって大きく異なり、それぞれの群体型が波あたりの強さに異なる耐性を持つことから、この帯状分布の形成には、着生後の生残率の種間差が大きく寄与すると考えられてきた。しかし、幼生着生の選択性に関しては、帯状分布形成にどの程度重要かは明らかになっていない。
ミドリイシ幼生が同種の親の優占帯(深度)を選択して着生している場合、着生時の個体群の種組成は、深度によって異なることが予想される。しかし、これまで幼生および着生後1年以内の幼体を形態的に種判別することは不可能であったため、着生時の深度ごとの種組成を比較できなかった。そこで本研究では、ミドリイシの分子生物学的種判別技術を開発し、着生直後の幼体を区別することを試みた。その結果、ミトコンドリアと核の遺伝子マーカーを使用した2段階選別法によって、ほとんどの優占種が形態情報なしに区別できることが明らかとなった。
これらの分子マーカーを使用して、礁斜面上に加入した着生直後の個体群の種組成を解析したところ、深度間で有意に異なった(ANOSIM、 p < 0.05)。さらに、被度レベルで最も優占したコリンボースおよびテーブル型の4種中3種(A. digitifera、A. hyacinthus、A. tenuis)で加入群と成体の分布傾向が一致した。これらの結果から、ミドリイシ幼生は、最適なハビタットに着生するため、選択的行動をとっていることが強く示唆された。