| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-05

岩礁潮間帯固着動物群集における種多様性の緯度勾配の維持機構:生態学的プロセスの重要性の検証

*奥田武弘(北大・環境),野田隆史(北大・地球環境),山本智子(鹿児島大・水産),堀正和(瀬戸内水研),仲岡雅裕(千葉大・自然科学)

地域レベルの種多様性の緯度勾配は、歴史的・進化的な時空間スケールで働くプロセス(地理的な面積や利用可能エネルギーなど)が「種分化率」・「絶滅率」・「他の地域からの移入率」の緯度に伴う変化を生み出すことによって形成される。このように形成された種多様性の緯度勾配は、生態学的な時空間スケールで働くプロセス(生態学的プロセス)によって維持されていると考えられている。様々な空間スケールの群集構造の決定機構に対する生態学的プロセスの影響を検証する方法として、Randomization testとVariation partitioningの2つのアプローチがある。Randomization testを用いることで、群集の非ランダムな空間分布の程度から群集構造の決定に対する生態学的プロセスの強さを推定することが出来る。一方、Variation partitioningは、局所群集間の群集構造の違いに対する環境の異質性と空間配置のそれぞれ独立した影響力を算出する方法である。これらの群集構造に対する環境の異質性と空間配置の説明力は、群集構造の決定に対する生態学的プロセス(ニッチ分割と分散制限)の強さの指標とみなすことが出来る。

日本列島太平洋岸の6地域(北緯31度−北緯43度)で階層的な空間配置を用いた調査を行った結果、岩礁潮間帯固着動物群集は低緯度ほど種数が多く、その緯度勾配は空間スケールの減少と共に緩やかになっていた。しかしながら、Randomization testとVariation partitioningの結果から、生態学的プロセスの強さは緯度に伴った変化をしていないことが示された。本結果は、生態学的プロセスは種多様性の緯度勾配の維持において重要な役割を果たしていないことを示唆している。

日本生態学会