| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-12

Facilitation研究のこれまで,そしてこれから

河井崇(九大院・理・生態研)

Facilitation(生物間の扶助関係)に関して,群集の遷移過程における重要性については,20世紀初頭からすでに認識されていた.また,ポリネーターと植物,サンゴと共生藻といった(絶対的)相利共生((obligate) mutualism)(広義的facilitation)に関しても,数多くの研究がなされている.しかしながら,物理的もしくは生物的に厳しい環境条件下で,同種または他種による環境緩和作用を介して生物の成長や生存等のパフォーマンスが上昇する,といった狭義的facilitation(任意的扶助関係(facultative facilitation))(以下単にfacilitationと記す)に関しては,生態学の一つの命題として研究されるようになってまだ20年足らずである.

このfacilitationの特徴は,その関係の強さ,さらには方向までもが状況依存的に変化しうることであり,従来の共生・競争関係と異なる点である.すなわち,facilitationは生物間の+の作用を基とした関係ではあるが,同時に−の作用も考慮するため,環境条件により+と−の作用のバランスが変化し,結果的に中立関係や競争関係が成立する状況も想定されている.一方その複雑性の所以で,実験的検証が容易でなかった上に,理論的モデルの構築も遅れ,ともすると生態系におけるその重要性が過小評価されてきた.

現在,日本国内においてfacilitation研究が盛んであるとは言えず,関連研究者数もしくは論文発表数は欧米諸国と比較して著しく少ない.そこで本講演では,まず生態学におけるfacilitation研究のこれまでの動向を紹介し,さらに期待される今後の展開を提案することにより,実証・理論,植物・動物とその研究対象を問わず,多くの方々に改めてfacilitation研究に興味を持っていただければ幸いである.

日本生態学会