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一般講演(口頭発表) E1-13
われわれは、植食性昆虫の寄主利用と分布が、近縁種間の生殖干渉により統一的に説明できることを理論的に示してきた。すなわち、生殖干渉がないときには共存が生じ、干渉が弱くかつ寄主適合性の違いがある場合には寄主植物への特殊化が生じ、干渉がある程度以上強い場合には隔離分布が生じることがわかった。しかし、実際の植食性昆虫において寄主利用と分布が、どの程度生殖干渉で説明可能なのかはいまだによくわかっていない。この講演では、寄主利用や地理分布がある程度わかっている日本列島産の蝶類を対象として、その寄主利用と分布を生殖干渉により説明することを試みた。
日本列島産蝶類の中から同属のペアをすべて選んで、それらの生殖干渉の程度、寄主範囲と地理分布を生息場所、配偶時期、配偶時間帯などと関連させて解析した。その結果、強い生殖干渉が生じている種間では隔離分布がみられること、それ以外の多くでは寄主植物の特殊化、生息場所の分離、配偶時期の違い、あるいは配偶時間帯の違いのいずれか、すなわち生殖干渉を避ける何らかの機構が生じていた。生殖干渉を防ぐ機構が認められない同属種ペアはごくわずかであり、その場合は、斑紋が近縁種と著しく異なるか、体サイズ差がかなり大きいか、あるいは生息場所が一時的であるかのいずれかであった。以上の現象は生殖干渉による説明と整合的だった。
しかしながら、現在みられる寄主範囲の決定に生殖干渉が関与しておらず、逆に寄主範囲がもともと異なっていたために共存が可能になったと推定される場合もかなりあった。現在みられる蝶の寄主利用と空間分布は、生殖干渉という相互作用によるものと、種間の相互作用によらずに生じた寄主範囲や分布の複合として捉えることができるだろう。