| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-15

土壌食物網における食物の腐植化に伴う15Nの濃縮:15Nと食物年齢の関係

兵藤不二夫(スウェーデン農科大学),陀安一郎(京大),Souleymane KONATE(アボボアジャメ大学),Jerome EbagneriTONDOH(アボボアジャメ大学),Patrick LAVELLE(フランス熱帯土壌研究所),和田英太郎(地球フロンティア)

窒素安定同位体は食物網の研究に広く用いられている。これは栄養段階の上昇に伴い生物の窒素同位体比が段階的に増加するという仮定を元にしている。一方、土壌動物の窒素同位体比もまたその食物の腐植化とともに増加することが知られている。しかし、このメカニズムについてはこれまで調べられていなかった。本研究では土壌動物の窒素同位体比に対する食物の腐植化の影響を明らかにするため、森林やサバンナに生息するミミズとシロアリの窒素同位体比と食物年齢を調べた。これらの生物は、分解を受けていない植物体から腐植化した有機物(土壌有機物)まで様々な腐植化程度の有機物を利用している。食物年齢は、生物の食物の炭素が、大気中から光合成によって固定されてからの経過時間を表す。この時間は生物の体の放射性炭素含量と大気二酸化炭素中のそれの記録を比較することで求めた。サバンナにおいて、これら二つの生物群の食物年齢と窒素同位体比の間には有意な正の相関があった。木材を利用するシロアリを除いた場合、この関係は森林でも見られた。この結果は、食物の炭素が木材組織のように分解を受けずに長期に保存される場合を除けば、生物の窒素同位体比は食物年齢とともに増加することを示している。陸上生態系では地上部の食物網が地下部の食物網からの物質やエネルギーによって維持されていることを考えると、窒素同位体を用いて陸上食物網を解析する際には、栄養段階に伴う窒素同位体比の上昇に加えて、土壌における食物の腐食化に伴う窒素同位体比の漸進的な上昇も考慮に入れる必要がある。

日本生態学会