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一般講演(口頭発表) E2-03
昆虫等による葉の被食は季節性をもち、植物の光合成にしばしば大きなマイナスをもたらすが、これまでのフェノロジーの研究ではほとんど検討されていない。そこで、一年中、緑葉をもつ草本種セントウソウ(セリ科)を対象に葉フェノロジーと被食害の季節性を調べた。調査地は千葉市緑区と東京都高尾山麓の2カ所で、林床に生育する本種の個体と葉を標識し、数年間にわたって月1〜2回、すべての葉のフェノロジー段階と被食害程度を記録した。
セントウソウは成葉を通年もつが、葉の生存期間(葉面が平開してから全体が枯れるまで)は約1〜8ヶ月で、短命・軟質な葉が入れ替わりながら1年をカバーしていた。典型的な順次開葉型で、開葉ペースは春に早く夏・冬には遅いが、千葉市ではほぼ通年新たな葉を開いた。ただ高尾山麓では冬期には展開中の葉の伸展が一時止まった。落葉もほぼ順次におこるが、4〜5月と12〜1月に枯れる葉が多かった。被食害は4月後半〜6月、とくに5月上中旬に集中して生じた。とくに千葉市では、2002〜07年の毎年、3〜6月に開いた葉の大部分は葉柄を残して失われ、夏期には葉身が半分〜全て失われた葉からなる個体が個体群中の約半数を占めていた。このような重大な被食害は、両地点でその季節に葉上に多数見られる小型のイモムシによると考えられた。そこで、これを飼育して蛹を小型蛾類の専門家に送ったところ、羽化した成虫はマルハキバガ科Agonopterix属の未記載種2種であるとのことであった(橋本私信)。
セントウソウと同様に、春〜初夏に昆虫により葉が食害される草本種は少なくない。この時期は春植物や冬緑性の葉が枯れる時期に相当する。本研究結果は、晩春に葉をすべて枯らすフェノロジーは、被陰回避だけでなく、昆虫等による季節的な被食圧を回避する意味もあることを示唆する。