| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E2-05
植物の間接防御には、植物が報酬を提供しアリなどの捕食者を誘引する戦略と、植食者からの食害後に特異的な揮発性物質を放出し、捕食者を誘引する戦略がある。従来、植物揮発性物質を利用した間接防御に関する研究は農生態系での研究が主に行われており、1種類の植物とその上の植食者と捕食者の相互作用に注目が集まっていた。しかし、野外の植物群集においては、1種の植食者が同所的に生育する複数の近縁植物種を利用する系が多く存在する。したがって、植食者の天敵も複数種の植物の匂い(揮発性物質のブレンド)を利用することになる。このような状況では、揮発性物質を介した植物−植食者−捕食者間相互作用は、これまで研究が進んできた系と比べて、非常に複雑である可能性が高く、植物の間接防御の働きを理解するためには新しいアプローチが必要である。そこで、同所的に生育するヤナギ7種とそれらを食害するヤナギルリハムシPlagiodera versicoloraおよびその主な天敵であるカメノコテントウAiolocaria hexaspilotを用いて以下の実験を行った。まず、植物種間で天敵の誘引性を比較した。次に、天敵の誘引性と植物の揮発性物質の組成との関係、および植食者から受ける被害の大小との関係を調べた。植物が野外で植食者から受ける被害レベルを反映する要因としては、植食者の分布、植食者の産卵選好性と植物の食べられやすさとを調べた。その結果、天敵の誘引性に植物間で有意な違いが見られ、主に4つの誘引性の違うグループに分けられた。そして、グループ間で、植物の揮発性物質の組成が有意に異なることが分かった。さらに、植食者の産卵選好性が高い種や野外でのハムシの密度が高い種ほど天敵の誘引性が高く、食べられにくい植物ほど天敵の誘引性が低いという関係も明らかになった。