| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-09

三宅島の噴火がヤブツバキの繁殖をめぐる花粉媒介系に与えた影響−鳥類が運ぶ花粉粒の直接遺伝解析

阿部晴恵(日本モンキーセンター),上野真義(森林総研・樹木遺伝),山本裕(日本野鳥の会・サンクチュアリ室),陶山佳久(東北大院・農),津村義彦(森林総研・樹木遺伝),長谷川雅美(東邦大・理・地理生態)

2000年から続く火山活動により、三宅島の森林は破壊的な影響を受けている。噴火活動は、森林の主要な構成種であるヤブツバキに対し、脱葉や花芽形成の阻害など負の影響を与えたが、開花密度の低下は受粉率に正の影響を与えた。さらに、母樹間の花粉プールの遺伝的分化の程度は開花密度が低くなるにつれて下がる傾向があり、調査地外からの花粉流入率は開花密度の低い調査地で上昇した。つまり、低開花密度下では花粉流動が促進されることが示唆された。そこで本研究では、開花密度の違いが花粉媒介者の行動と実際に運ばれる花粉の遺伝的多様性に与える影響を直接調べることを目的とし、開花密度の異なる3調査地(開花花数(N/ha)は順に、53、206、10107)において、花粉媒介者(鳥類)の行動とその嘴から採取した花粉の遺伝的多様性を比較した。その結果、メジロ、ヒヨドリ、ウグイス、シジュウカラ、ヤマガラの5種の鳥類の訪花が観察され、うち、78-96%はメジロによる訪花であった。また、主な花粉媒介者であるメジロの行動圏は、低開花密度で有意に広くなった。一方、SSRマーカー(6遺伝子座)を用いて、各鳥類個体の付着花粉の遺伝的多様性を比較したところ(平均31粒)、メジロの場合のGene diversityは0.305-0.310、対立遺伝子数は2.4-2.7の値であり、調査地間に差は見られなかった。

以上の結果から、一回の訪花での花粉の遺伝的多様性は開花密度の違いで差がないものの、低開花密度下ではメジロの行動圏が広くなることで、花粉の遺伝的多様性が確保され、その結果としてヤブツバキの花粉流動が促進されていることが実証された。

日本生態学会