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一般講演(口頭発表) E2-12
シカなどの大型ほ乳類の食害は植物の形質変化を介在して植食性昆虫に正負両方向の間接効果をもたらす. これまでは植食性昆虫の密度の増減のみに着目した研究例が多く, 植食性昆虫の適応度への影響を考慮した研究は少ない. 演者らはバルサムモミ(以下モミ)の針葉に虫こぶを形成するタマバエとその天敵(寄居者)の密度・適応度に, ムースの食害が及ぼす間接効果の実態を明らかにすることを目的として防鹿柵を用いた野外操作実験を行った. 調査はムースによる植生の変化が著しいカナダ東部のニューファンドランド島で行った. ムースの食害を定量化し, タマバエと寄居者への間接効果を検討するため, ムースの食害を受けやすい稚樹(30-200cm)を対象としてモミの被害程度と虫こぶ密度, タマバエの生存率, 寄居者の寄生率を柵内外で比較検討した.
柵内外でのモミの密度と稚樹の形質(樹高・当年枝数等)を調査した結果, ムースの食害はモミの密度を約50%, 当年枝数/木を約40-60%減少させた. 虫こぶの密度調査から, 虫こぶ密度は柵内で2.5-6.9倍と高密度に観察され, タマバエは利用可能な資源量の多い柵内を生息場所にしていることが示唆された. また, 袋掛けによる生存率調査から柵内外でタマバエ生存率に有意差は認められなかった. 一方, 寄居者の寄生率は柵内で高かった. 寄居者は探索効率の良い, ホストが高密度に生息する場所(柵内)を選んでいることが示唆された. 従って, ムースの食害はタマバエの生存率に影響しなかったものの, タマバエの利用可能な資源を減少させて生息数を大きく制限しており, このタマバエ密度の減少によって寄居者の生息数も制限していることが明らかになった.