| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-14

ヤンバルの育成天然林施業が材食・菌食ガガンボ類の多様性に与える影響

*末吉昌宏, 後藤秀章, 佐藤大樹(森林総研九州)

育成天然林施業(育天)が亜熱帯林の腐食性昆虫の多様性にどのような影響を与えるかを明らかにするため、腐朽木を利用するガガンボ類の個体数と種数を育天の有無や育天後の経過年数の異なる林分間で比較した。これらのガガンボ類は幼虫期に腐朽木を分解する、種数・個体数共に豊富な昆虫の1群である。

2006年2月から2007年2月まで、沖縄本島北部のヤンバルに、育天による二次林(1-23年生)と伐採記録のない自然林に12カ所の調査地(10m四方)を設け、調査地内の倒木・落枝を太さと腐朽の度合いの組み合わせで6つのカテゴリーに分類し、倒木・落枝量を計量した。これら倒木・落枝を全て、カテゴリー毎にトラップに詰め、そこから羽化したガガンボ類の個体数と種数を計数した。また、調査地の立地が異なっていたため、調査地の大気中湿度を夏期と冬期に計測した。

ガガンボ類の種数は育天後の経過年数に伴って減少する傾向があった。個体数は育天直後に多く、その後減少するが、増減は育天の有無および育天後の経過年数と明確な相関関係がなかった。また、種数・個体数の増減は倒木・落枝量の増減と一致する傾向があった。古い材から羽化したガガンボ類の種数と個体数は新しい材から羽化したそれらよりも明らかに多かった。また、中径の材から比較的多くの種数と個体数が羽化し、小径の材から最も少ない種数と個体数が羽化した。ガガンボ類の種数の増減は湿度の高低と明確な関係がなかったが、個体数の増減は湿度の高低と一致する傾向があった。

育天直後に、ガガンボ類の種数・個体数は高い水準を示すが、年数が経過するに従い、それらは減少するであろう。しかし、古い中径の倒木・落枝が供給されることで、また、湿度が高い場所では、育天の有無にかかわらずガガンボ類の多様性が維持される可能性がある。

日本生態学会