| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) F1-13
社会性昆虫にとって自分たちの子を識別して保護する行動は、最も基本的な社会行動の一つである。例えば、シロアリの職蟻は女王の産んだ卵を認識し、育室に運搬して世話をする習性をもつ。近年、講演者らによりシロアリの卵に擬態して巣の中に生息する卵擬態菌核菌(ターマイトボール)が発見された。木材中に生息するシロアリは、当然ながら、自分たちの子どもを眼で見ることはない。シロアリが卵を認識する際には、表面接触フェロモンのひとつである卵認識フェロモンが重要な役割を果たす。このシロアリの卵保護行動を誘発する卵認識フェロモン(TERP: Termite Egg Recognition Pheromone)に注目が寄せられていた。卵保護行動に代表される親による子の保護はシロアリにおける社会進化の出発点であり(亜社会性ルート)、この行動を誘発するフェロモンの同定は、社会の起源と進化を探る上でもきわめて重要な意味をもつ。我々は、300万個余りのシロアリの卵を採集し、化学分析とバイオアッセイを繰り返し、遂にシロアリ卵認識フェロモンの世界初の同定に成功した。
シロアリのワーカーは育室の卵を毎日丁寧に舐めて、抗菌物質を含む唾液でコーティングし、卵を糸状菌やバクテリアなどの病原性微生物や乾燥から卵を守っている。このようなワーカーによる卵の保護行動は最も基本的で重要な社会行動であり、ワーカーのグルーミングを受けなければ卵は生存できない。我々は、この唾液中にも含まれている抗菌タンパク質のリゾチームがシロアリの卵認識フェロモンであることを特定した。シロアリはリゾチームによって卵を病原性バクテリアから保護するとともに、卵を認識するフェロモンとして利用していることが明らかになった。この発見は昆虫フェロモンの進化プロセスを解明する上でもきわめて重要な意味をもつ。進化的合理性の視点からフェロモン同定への近道を考察する。