| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) F1-14
ヤマトシロアリReticulitermes speratusは、「二分岐型」発生経路を持つシロアリである。生まれた卵は孵化ののち、脱皮を経て最終的に有翅虫になる「ニンフ」の発生経路と、翅を持たない「ワーカー」経路のどちらかへと分化する。本種の「ワーカー」「ニンフ」カストの決定は、これまでコロニー内の他個体によるフェロモンの作用など、外的要因によるものと考えられてきた。しかし最近、Hayashi et al. (2007)は本種のワーカーとニンフ双方に由来する幼形生殖虫を用いて交配実験をおこない、この分化に遺伝的要因が関わり、その効果は性染色体上の1遺伝子座の遺伝モデルで説明可能なこと、を明らかにした。
野外のヤマトシロアリのコロニー内で、ワーカーとニンフの分化には、(1)両親である生殖虫のカスト(遺伝子型)を反映する遺伝的効果、(2)巣内の生殖虫の(おそらくフェロモンによる)作用で、「ニンフ型」遺伝子を持った個体がワーカー化される効果、の少なくとも2つが作用しており、コロニーの適応度を低下させないようなカスト比が維持されていると考えられる。しかし、野外のヤマトシロアリ巣のニンフ・ワーカー比およびこれらの性比に関するデータは少ない。
本研究では茨城県水戸市および東海村において、本種のコロニー(営巣材)を採取し、個体を取り出した上でニンフとワーカーのカスト比、及び両カストにおける性比の調査を行った。ニンフの方がコロニーにより性比の偏りが大きい傾向が見られたが、うち1コロニーではほぼ全ての個体がメスであった。このような性比が生じた過程についても議論を行う。