| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-02

移動分散に果たすニッチ幅の役割;浮遊生物ヒゲナガケンミジンコを例として

*牧野 渡(東北大・生命科学), 占部 城太郎(東北大・生命科学)

閉鎖系の傾向が強い湖沼においても、動物プランクトンの群集組成決定メカニズムを把握するためには、各々のタクサの移動分散(異なる湖沼間での移動)について理解する必要がある。近年の分子生物学的手法を用いた研究は、生活環における分散ステージであると認識されている「休眠卵」を産生するタクサでは、数千キロに及ぶ分散も可能であることを示している。ただし休眠卵を産むからといって、無制限に遺伝子流動が生じるのではなく、実際の個体群の遺伝子組成は、実は湖沼間で著しく異なり、結果的に明瞭な個体群遺伝構造が認められる場合が殆どである。ゆえに強い分散ポテンシャルを想起させる休眠卵を産むタクサにおいても、実際には移動先での定着成功率の方が、群集組成決定機構により強く貢献すると考えられている。このように動物プランクトンの移動分散は、主に休眠卵を介して研究されてきたが、その他の生態学的特徴、例えばニッチ幅など、との関連については、現状では殆ど理解されていない。そこで演者らは、日本各地に広く分布しているが、種ごとにニッチ幅が異なるヒゲナガケンミジンコ類(休眠卵を産む)に着目し、mtDNA COI領域の塩基配列から個体群遺伝構造を把握し、分散能力の種間差を類推した。本研究での優占種二種のうち、Eodiaptomus japonicusは主に低地のため池に分布したが、ため池は一般に富栄養化が進んでおり生産性が高い。もう一方の優占種であるAcanthodiaptomus pacificusは低地のため池に加えて、高層湿原の池塘や高山湖沼といった、生産性が低く劣悪な環境でも卓越した。そしてニッチ幅の大きなA. pacificusの方が分散能力は小さい、つまり移動先での定着率が低い可能性が、AMOVAの結果から考えられた。そのメカニズムについて考察する。

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