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一般講演(口頭発表) F2-03
本講演では集団遺伝学の主要概念である『Isolation-by-distance; IBD』の新しい解析手法を紹介する(Koizumi et al. 2006. Mol. Ecol. 15; 3175-)。本解析は地理的距離と遺伝的距離の相関分析に基づくもので、動植物を問わず全ての分類群に適用可能である。
ほとんどの生物は移動能力に限界があることから個体群間の地理的距離と遺伝的距離には正の相関が予測される。この相関パタン(IBD)は個体群間のジーンフロー(遺伝子流動)とドリフト(遺伝的浮動)が平衡状態の時に認められる。したがって、こういった相関分析からジーンフローとドリフトの強さを推定することが可能であり、また、正の相関が見出せなかった場合は個体群の歴史が新しい(古い)などの非平衡状態が示唆される。しかしながら、これまでの研究ではジーンフローやドリフトの程度が個体群ごとでほとんど変わらないという非現実的な仮定がおかれていた。また、強く隔離された個体群(ドリフト>>ジーンフロー)が解析中に含まれていれば誤ったIBDのパタンが検出されるが(例えば、遠くの隔離個体群を含めたら正の相関が検出されやすくなる)、この問題はあまり考慮されてこなかった。
本研究では従来ひとまとめに解析されてきた個体群ペア間の相関を分解し、各局所個体群におけるジーンフローとドリフトの相対的な強さを評価する。また、この残差分析とAICを用いた手法を使えば、地理的な事前情報がなくとも隔離個体群の検出が可能となる。本手法を空知川のオショロコマで試したところ、従来の方法よりも遥かに効果的にIBDを検出し、さらに各個体群の特徴まで浮き彫りにした。これまでの莫大な相関分析に関わらず、各局所個体群の情報を抽出した研究は今回が初めてであり、今後、遺伝的解析のスタンダードとして広く用いられることが期待される。