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一般講演(口頭発表) F2-04
我々はこれまでに、主に国内のツキノワグマUrsus thibetanusを対象に、ミトコンドリアDNAコントロール領域のレフトドメインについて遺伝的調査を行ってきた。その結果、日本のツキノワグマは西日本と東日本で異なる進化史を経験した2つの遺伝的なグループをもつことが明らかになり、西日本の地域個体群が東日本に比べ遺伝的な多様性が低く、各地域個体群間の分化の程度が高いことが示された。
今回、我々はさらに核DNA上の遺伝子座についても遺伝的調査を試みた。対象としたのはMHC(主要組織適合性複合体)遺伝子で、これは細胞表面に発現し、免疫系においてT細胞に抗原ペプチドを提示するMHC分子をコードする一連の遺伝子群であり、自己・非自己の認識に関与している。また、MHCは多くの外来ペプチド(ウイルスや細菌等)を認識するため非常に高い遺伝的多様性をもつことが知られている。MHC多型の減少は、潜在的な外部環境への適応度の低下を促し、種や集団の存続に重要な役割をもつと考えられる。そのため、ツキノワグマの各地域個体群におけるMHCの遺伝的多様性が、保全遺伝学的に重要な指標になると予測される。
ツキノワグマにおけるMHC遺伝子の構造はこれまで明らかにされていないため、我々はMHCクラスII DQB遺伝子のエキソン2全体を増幅するプライマーの設計を試み、このプライマーを用いて国内のツキノワグマの各地域個体群間において多様性を調査した。今回の我々の結果では、これまでのところ52個体から11個の対立遺伝子が検出されており、これらはDQB遺伝子座の対立遺伝子であることが示唆された。そこで、今回の解析結果を用いて各地域個体群間の同遺伝子座における多型性の相違についてここで議論したい。