| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-05

盗み寄生者チリイソウロウグモの宿主利用はどのように変化したか?:mtDNACO1領域を用いた系統地理学的アプローチ

*馬場 友希,宮下 直(東大院・農・生物多様性)

チリイソウロウグモは造網性クモの網に侵入し、餌を盗んで生活する盗み寄生者である。本種は、地域によって宿主利用が異なり、宝島以南ではスズミグモを、屋久島以北ではクサグモを利用する。宿主利用の異なる地域間で本種の相対脚長に違いがあることを明らかにした。室内実験により、これは宿主の網を巧く歩行するための形態的適応であると考えられた。この変異は本種が分布を拡大するに伴って宿主をスズミグモからクサグモへと変化させた結果生じたと考えられる。本講演では、このプロセスを確かめるため、mtDNAのCO1を用いて、本種の遺伝的構造と系統関係を明らかにした。

台湾から埼玉までの19個体群、160個体を用いて解析を行なったところ、計31個のハプロタイプがみつかり、3つのクレードに分けられた。ネットワーク樹を作成したところ各クレードにおいて、特定のハプロタイプが優先する、いわゆる花火型放散のパターンを示した。次にBarrier ver2.2を用いて遺伝構造の解析を行ったところ、屋久島−宝島間にギャップがあり、これは宿主利用の境界と一致していた。一方、系統解析からはクレード間を関係づける枝の信頼性が低いため、祖先的な系統は特定できなかった。

本種の遺伝的構造の形成には、トカラ海峡の形成や、氷期の気候変動など地史的な要因が関わっていると考えられた。ただし、祖先的系統を特定できなかったため、宿主変遷の方向は示せなかった。また、宿主利用の異なる個体群間で遺伝的組成が異なっていたことから、形態の変異は、形態の異なる系統が各地域に定着することによって生じたという代替的なシナリオも考えられた。こうした問題に対する解決策も含めて、今後の展望について述べたい。

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