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一般講演(口頭発表) F2-08
19世紀にA. R. Wallaceが驚嘆した、鮮やかで変化に富んだ熱帯の生物の色彩の存在は、現在では生物学者だけでなく、一般にまで広く知られている。近年、緯度に沿った生物間の相互作用の勾配が報告されるようになり、それによって、低緯度に棲む生物の形態や行動の特異さと多様性について、いくらか説明が行われてきた。一方、自然界では、色彩を介した様々な生物間の相互作用がみられる。しかしながら、低緯度に棲む生物の色彩の鮮やかさや多様性を、緯度に沿った生物間の相互作用の強さの違いによって理解する試みは、これまで行われていない。発表者は、日本固有種であるイモリを研究対象として、色彩を介した生物間の相互作用の1つである警告的現象(aposematism)に注目してきた。これまでの研究により、島嶼に生息するイモリの警告色と警告的行動は、本土に生息する個体に比べ、より目立つことがわかっている。この現象は、地理的に変動する捕食圧の違いによる影響を受けているものと考えられている。本発表では、調査スケールをより広く(緯度で9度程)することで明らかにされた、緯度に沿った警告色の地理的変異の勾配について報告する。まずイモリの警告色は、緯度が低くなるにつれ、より目立つようになることが明らかにされた。また低緯度では、島嶼と本土の個体群間の警告色の変異が再検出されたものの、高緯度ではこれが検出されなかった。つまり、アカハライモリの警告色の個体群間(島嶼VS本土)の変異は、緯度が低くなるにつれ、顕著になることが明らかにされた。これは、A. R. Wallaceが発見した低緯度に棲む動生物の色彩の特徴と一致するものである。警告的行動にはこのような地理的傾向は検出されなかった。これらの結果を踏まえ、本発表では、イモリを取巻く生物間の相互作用が地理的にどのように変動し、このような警告的形質の変異を産み出すのかについて議論する予定である。