| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-10

近畿地方におけるオオセンチコガネの色彩変異の定量的解析

*赤嶺真由美(滋賀県立大・院),近雅博(滋賀県立大・環境)

オオセンチコガネは,金属光沢のある色彩を示し,近畿地方において藍色型,緑色型,赤色型の地理的変異を示すことが知られている.これらの色彩型は,それぞれ紀伊半島一帯,京都府南部や滋賀県東部,上記2つの地域以外の地域に分布するとされている.ただし緑色型の北限は明確になっていない.これまでこの種の色彩はヒトの視覚によって分類されてきていた.それに対して,Watanabeら(2002a,b)は,反射スペクトルの測定により,3つの色彩型がヒトの可視領域(400−700nm)にあるピークの波長(λmax(α))の位置の違いによって明確に判別されることを示した.しかし,これまで典型的な3つの色彩型を代表する6個体群についてしか測定と比較は行なわれておらず,近畿地方における本種の色彩個体群内および個体群間の変異は十分解析されているとはいえない.そこで我々は,近畿地方のより広範囲の23地点から集めた個体の鞘翅の色彩についてスペクトロフォトメーターを用いて調べた.

測定したすべての個体において可視領域内の反射スペクトルに1つの大きなピークが見られた.また23個体群すべてにおいてλmax(α)に有意な性差が見られなかったので,雌雄のデータを合わせて解析した.今回の測定結果に基づき,λmax(α)の平均値が,480−497nmの個体群を藍色型,557−608nmを緑色型,617−633nmを赤色型と再分類した.藍色型は調査された地域の南部を占め,緑色型は藍色型の北部を,赤色型は緑色型の北西部と北東部を占めた.従って,緑色型はλmax(α)の平均値と地理的分布の両方において赤色型と藍色型の中間であるといえる.さらにλmax(α)の変動係数は,緑色型の個体群で藍色型や赤色型のものより高い傾向を示した.

これらのことから緑色型は,赤色型と藍色型の交雑によって形成されたのではないかと考えられた.

日本生態学会