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一般講演(口頭発表) F2-11
野外で見られる葉の多様な形態は、生理的な機能を規定するために、系統的制約のもとで生育環境へ適応する中で獲得されてきた形質だと考えられる。なかでも、渓流沿い植物にみられる「狭葉」は、流水ストレスをいう明確な選択圧を想定することが可能であり、環境適応の分かりやすい事例と言える。
キク科ツワブキ属ツワブキ{i}Farfugium japonicum{/i} (L.f.) Kitam.は、海岸陽地から林床・溪流帯まで分布し、観察される「陽葉」「陰葉」「狭葉」といった葉形態の種内変異によって、おのおのの集団が生育環境ごとに特徴づけられる。
ツワブキに見られる「狭葉」は、分子系統地理的な解析から、複数地域で並行的に進化してきたと考えられる。とくに、西表島のさまざまな集団について、形態変異と遺伝的多様性の比較をおこなったところ、葉形態に狭葉・陰葉への特殊化が見受けられる集団では遺伝的多様性も低くなっていたことから、葉形態に対する強い選択圧が働いていると考えられる。
そこで、野外で生育する個体について、生育環境での生理生態特性を調べたところ、形態にかかわらず「面積あたりの最大光合成速度」や「葉厚」が生育光条件に応じた増加を示していた一方で、「重量あたりの最大光合成速度」は「狭葉」だけで低く、「陽葉」「陰葉」では違いが見受けられなかった。葉の解剖構造を比較したところ、「狭葉」では葉肉細胞の密度が高くなっており、流水に対する強い力学的強度とひきかえに低い光合成効率を強いられていると考えられる。
本発表では、このような生理生態的特性の違いが、どの程度遺伝的に規定されているのかについて、同一条件化で育成した2年生実生苗を用いた共通圃場実験の結果を基に、議論して行きたいと考えている。