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一般講演(口頭発表) G2-02
ブナ天然林におけるブナ殻斗のリターフォール量は豊作年で全体の約3割に達し、その分解過程は森林生態系の炭素循環に大きく寄与している。また分解過程を理解するためには有機物の主な分解者である菌類の動態を明らかにする必要がある。これまでにブナの落葉や倒木の分解過程は明らかにされているが、ブナ殻斗の分解過程に関しては研究例が少なく殻斗内部の菌類動態については明らかにされていない。本研究ではブナ殻斗の分解過程と菌類の関係を調べるため、リターバック法を用いて殻斗の重量減少、リグニン・全炭水化物量、殻斗内部菌類の分離頻度、殻斗上の子実体の出現頻度について調査を行った。調査は京都大学芦生研究林のブナ天然林において2006年5月から2007年11月までの18ヶ月間行った。なお2005年はブナの豊作年であった。18ヶ月間で14.2%の重量減少が見られた。内部菌類の分離頻度は調査期間を通してXylaria sp.1が最も高かった。分離頻度に減少傾向が見られたのはXylaria sp.1, Epicoccum nigrum, Ascochyta sp., Phomopsis sp.の4種であり、増加傾向が見られたのはTrichoderma spp.であった。減少傾向の見られた種のうちXylaria sp.1以外の3種は最初の6ヶ月間で頻度が大きく減少した。これらの菌類は生葉からも出現する内生菌であることが知られており、このような菌類遷移は落葉と類似していた。このことからブナ殻斗に落葉と同様の内生菌が存在していたのではないかと考えられる。子実体の出現頻度は子嚢菌の一種(未同定)が最も高く、2007年5月にはシロヒナノチャワンタケ、同年8,11月にはブナノホソツクシタケというブナ殻斗に特異的なきのこの出現が確認された。またこれは内部菌類の分離頻度とは異なる結果となった。